この記事を開いたあなた、アパート経営をするだけで節税ができると思っていませんか?
まず一つありがちな誤解を解消しましょう。
不動産投資における「節税」は、赤字の時しか有効ではありません。
節税するためにアパート経営をしよう!という考えはリスクであることを最初に理解しておきましょう。稼いでいればいるほど、税金を納める金額も増加するという基本ロジックはいつの時代も変わりません。
しかし、アパートを購入する投資の前から節税準備をして、
不動産投資で得た利益(収益)をより多く手元に残すことは、事前に正しい知識を持っておくことで可能となります。
この記事では節税可能な税金を明記し、その節税スキームの概要をまとめています。
また、「節税目的のアパート経営」に隠された罠をも大解剖していきます!
目次
1. アパート経営のポイントは?
アパート経営のメリットは、区分ワンルームに比べて総戸数が多いことです。
やり方次第では月に30万円以上の家賃収入を得る事も可能です(全室満室状態など)。
しかし、逆を言えば損失が増すリスクを抱えることになります。空室が続けば、家賃収入から支払うランニングコストが負担になります。
経営には踏ん張るべき時期が必ず訪れます。
その時期をどう乗り越えるかが、不動産投資の成功を左右するとも言えます。あらゆるリスクを想定しつつ、長期的な経営を目指しましょう。
アパート特有の収入で言えば駐車場の料金が含まれます。
仮に売却するとして、木造の場合耐用年数の関係で買い手がつかずという事態も多くあります。しかし、周辺環境の良い土地を購入していれば回避する事ができる場合もあります。
アパート経営は土地が大切。
また、建物の管理や修繕も、売却の際に価値を下げないよう保有する必要があるため重要です。
1. アパート経営で得た家賃収入に税金がかかる仕組み
まず、アパート経営で家賃収入を得るとどのようにして税金がかかるのでしょうか?
1-1. 家賃収入は不動産所得!給与所得とは別の扱いに
サラリーマンと両立して不動産オーナーをしている人は多いことでしょう。
会社勤めで得た給料は「給与所得」・アパート経営で得た家賃収入は「不動産所得」として別に扱われます。
不動産所得に当てはまるものは以下の3つ。
(1) 土地や建物などの不動産の貸付け
(2) 地上権など不動産の上に存する権利の設定及び貸付け
(3) 船舶や航空機の貸付け引用:国税庁ホームページ 不動産収入を受け取ったとき(https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1370.htm)
会社員は会社を通して納税をしているので確定申告で税金を納める機会もない人が多いと思いますが、
給与所得とは別に家賃収入を得ると、確定申告をする必要があります。
1-2. 家賃収入・アパート経営で使用した経費・給料で税金が決まる
確定申告時に
- あなたの本業の収入(給与所得)
- アパート経営で得た家賃収入
- アパート経営をする上で使った必要経費
を証明できる書類を提出し、全ての所得を足して税金を決定するというわけです。
また、不動産所得が20万円以上あると確定申告が義務となります。故意に申告しなかったり遅れがあるとペナルティが課されるので注意しましょう。
「所得」というのは収入から所得控除や必要経費を差し引いたものを言います。そしてこの「必要経費」こそが節税の肝になってきます。
確定申告については以下の記事を参考にしてください。
2. アパート経営で節税できる税金4種
①所得税|不動産所得を抑えれば下がる
所得税の場合、必要経費を漏れなく計上することで、節税というよりも「払う税金を極力抑える」ことが可能となります。
特にアパート経営節税の最大の理由でもある減価償却費は、建物の構造によって決められた「耐用年数」の期間は経費を計上できるので、黒字経営の場合でも帳簿上のみ赤字になることもあり、結果節税になります。
ただし、所得税が少なくなる条件は帳簿上の赤字経営になっていることが前提になります。
不動産所得がマイナスだと、給与所得からその分を控除することができるため所得税を減らすことができるのです。これを損益通算と言います。
減価償却についてはこちらをご覧ください。
②住民税|所得と連動する
住民税は一律で課税所得額の10%が徴収されます。
会社勤めの人は、項目1でもお伝えした通り、
が「課税所得額」になるため、必要経費を差し引けば税金をどの程度節税できるのかが変わってきます。
そのため、所得税と同じく帳簿上で赤字になれば、給料所得とともに損益通算できるので税額を減らすことができます。
所得税・住民税が節税できる条件は
- 「必要経費」を漏れなく計上すること
- 減価償却期間が残っていること
- 帳簿上が赤字で、給与所得と損益通算をすること
③相続税|アパート経営者増加のワケはここにあり
アパート経営で一番恩恵を受けられるのが「相続税の節税」です。
平成27年に税制が改正されたことで基礎控除額が引き下げられた結果、相続税課税の対象となる人が増えてしまいました。
ちなみに相続税の控除を受けられる条件は以下の通りです。
法定相続人 | 基礎控除の金額 (H27.1.1から) |
---|---|
配偶者のみ | 3,600万円 |
配偶者+子ども1人 | 4,200万円 |
配偶者+子ども2人 | 4,800万円 |
配偶者+子ども3人 | 5,400万円 |
配偶者なし 子ども1人 | 3,600万円 |
配偶者なし 子ども2人 | 4,200万円 |
配偶者のみで3,600万円以上(相当の資産も含む)を所有している場合は基本的に課税対象になります。
不動産投資で、賃貸物件に投資をすると土地や建物の評価額が購入時よりも低く評価されます。
更地を相続する場合は建物を建てたほうが節税になります。
土地なら評価額が約70~80%程度、建物なら約30~70%までに下がるため、相続税を節税することができます。
そのため、相続税対策としてアパート経営をする人が増えています。
一番の節税対策は生前贈与を受けることです。相続税より贈与税の方がよっぽど安いためです。
④固定資産税(都市計画税)|更地よりもアパート経営がいい理由
固定資産税とは市町村の地方税で、土地や家屋を所有している人に納税義務があります。
都市計画税は都市計画区域のうち、基本的に市街化区域内の土地家屋にかかり、固定資産税とセットでかかってくる目的税です。
固定資産税評価額もまた、更地にしておくよりもアパートを建てた方が評価額を20%ほど抑えることができます。
固定資産税は課税標準額× 1.4%・固定資産税は課税標準額×最高0.3%で求めますが、
更に税率を軽減する方法はズバリ「分筆」です。
簡単に言うと一枚の登記簿(一筆と言います)から土地を分割することです。
一筆の土地の範囲が広いと、大通りに面している便利な土地も、利便性が低い入り組んだ土地も同じ評価額になってしまい、固定資産税が高くなってしまいます。
そこで、分筆することにより利便性が低い土地の評価額を下げることができます。
ただし、分筆登記をするには土地家屋調査士や司法書士などの専門家に依頼することになります。料金が発生するのでこの点も加味しましょう。
更地にしておくよりアパートを建築する・大きい土地を分筆することで、固定資産税評価額を下げることができます。
結果固定資産税・都市計画税の節税になります。
3. アパート経営で節税する方法・条件
アパート経営をする上で節税する方法や節税になる条件をまとめました。
3-1. 帳簿上赤字になっていると給与所得と損益通算ができる
項目2でも述べたように不動産所得が帳簿上赤字になっていると給与所得と損益通算ができ、所得税と住民税を抑えることができます。
3-2. 青色申告を行う|10万or65万の控除
確定申告は青色申告と白色申告のいずれかを選択することができ、不動産所得を得ている人は青色申告を行うことができます。
青色申告は少し手間はかかりますが、所得控除が10万円もしくは65万円もの所得控除を受けることができます。
65万円の「青色申告特別控除」を受けるためには、事業的規模となる5棟10室(戸建などの独立家屋なら5棟、アパートなど独立した部屋数が10室以上)の条件を満たす必要があります。
3-3. 必要費用を漏れなく計上する
不動産所得には必要経費として計上できる項目がたくさんあります。
確定申告時に全て理解して漏れなく計上することで、支払う税金を最大限抑えることができます。
アパート経営で経費にできるものについては項目4で説明します。
3-4. 初年度のみの節税効果?
アパート経営を始める時、
- 登録免許税
- 不動産取得税
- 印紙税
- 建築確認申請等手数料
- 司法書士による登記費用
- ローン手数料
- 火災保険料
- 地震保険料
など、初期費用が多くかかります。これらの費用は全て必要経費として計上可能。なので、物件取得年度は最大限の節税効果を得ることができますが、翌年からは節税効果が落ちることは免れません。
また、中古アパートに関しては耐用年数の残数を気にしておきましょう。耐用年数が過ぎたら、減価償却費を必要経費として計上できないので税金が上がります。
3-5. 家賃収入が増えたら「法人設立」で節税?!
一定の収益をあげていたら、法人を設立することをオススメします。
個人で払う所得税・住民税を合わせた最高税率は55%にもなってしまいますが、
法人所得にかかる税率 | 改正前 | 改正後 | ||||
中小法人 | 平成28年度 | 平成29年度以降 | 平成28年度 | 平成29年度 | 平成30年度 | |
年400万円以下の金額 | 21.24% | 25.90% | 21.42% | 25.99% | 25.99% | |
年400万円超 年800万円以下の金額 |
23.20% | 27.58% | 23.20% | 27.57% | 27.57% | |
年800万円超の金額 | 34.33% | 33.80% | 33.59% |
このように、法人所得にかかる税率は最大でも約34%と、一定の家賃収入を得られている人であれば、大きな節税になるのです。他にも、
- 法人化することによって相続税、贈与税もカット可能
- 生命保険を全額経費にできる
等のメリットがあります。
給与所得・不動産所得を合わせて800万円を超えている人は検討するのも手でしょう。
法人化について詳しくはこちらをご覧ください。
4. 覚えておくだけで税金対策に!アパート経営で発生する必要経費
最大限、必要経費を計上することが節税(より多くの税金を手元に残すこと)に繋がります。
アパート経営で必要経費にできるものです。
- 共益費(管理費)・修繕費・町内会費
- 賃貸管理代行手数料
- 火災保険・地震保険
- ローンの金利
- 減価償却費
- 貸倒引当金(貸し倒れの損失に備えて、あらかじめ経費に計上しておくもの)
- 固定資産税・都市計画税
- 不動産取得税
- 登録免許税
- 印紙代
- 司法書士・税理士への手数料
- 地代家賃
- 接待交際費・交通費など
- 消耗品費
- 事業的規模(5棟10室)になると経費計上できるもの(滞納された家賃・従業員への給料・災害での被害総額)
このように、不動産所得では経費計上できる項目が他の所得より多くなっています。そのため、「不動産投資は節税になる」と言われるのです。租税公課はほとんど計上することができますね。
修繕費の扱いには注意
アパート経営で1つ注意しておきたいのが「修繕費」です。
アパート経営は特に一棟丸々の投資になるので色々な設備を修繕する必要がありますよね。
ただ、一つ注意しておきたいのが「修繕費の中でも経費計上できないものもある」ということ。
アパートの機能維持のための支出である修繕費(収益的支出)と区別しなければいけないものにアパートの価値を高めるための支出である資本的支出があります。
・ただ直すだけ(原状回復)
・そのモノの価値が高まったか(新たな機能が追加されたか)
いずれかで計上が変わってきます。
資本的支出になると必要経費にできず、間違えて計上してしまうと追加で税金がかかってしまう場合もあるので覚えておきましょう。
5. 「節税対策アパート経営」の営業文句には注意!
ここまで読んでいただけたなら、「節税になるからアパート経営を始めるのがオススメです!」と勧誘してくる営業マンがいかに怪しいかが分かると思います。
節税の仕組みを知らないと、「節税」という言葉に取り憑かれて利益の出ない物件を買わされてしまう可能性もあります。
十分に資産を持っている人へ「相続税対策」としてアパート経営を勧めるのは間違ってはいません。
ただ土地も持っていないサラリーマンの場合、不動産投資を始める目的が「節税」であるのは間違っています。
節税になるのは基本的に「経費計上できる項目が多い初年度」と「赤字経営」の時です。儲かっている時にはそこまでの節税はできません。
あくまで「資産形成」を目的とし、収益を得ることがアパート経営の目的です。
あなたの身になって、あなたの将来・資産設計まで考えてくれる不動産会社・営業マンを探したいものです。
6. アパート経営で目指すは収益!節税より「税金を最小限に抑える」ことを心がける
土地の相続税や相続税対策としてアパート経営を始めると確かに節税になります。しかし節税のために不動産投資を始めることはおすすめしません。
節税ばかりに目を向け、税金を減らせてもアパート経営で赤字を出していたら本末転倒。
それでも、より多くのお金を手元に残したい。余分な税金は払いたくない。その思いは皆さん一緒だと思います。
そこで、当記事に書いた
- 必要経費を漏れなく計上する
- 給与所得と損益通算をする
- 減価償却を利用する
これで払う税金を最小限に抑えることができるのです。
初心者でも始められるとはいえ、効率よく手元にお金を残すのは「ある程度の知識」が必要不可欠です。
不動産投資をする上で「税金を払うこと」は避けては通れない道ですが、きちんと知識を付ければおのずと節税の方法は見えてきます。
「節税」になる条件は頭に入れておき、手は抜かずにより多くのお金を手元に残しましょう。