不動産投資で利益を得れば、確定申告により税金を納めなければならないのはご存知でしょう。
苦労して稼いだにもかかわらず、納税という名目で利益の何%かを支払うことになります。
もちろん、納税は国民の義務なので守らなければいけません。
ところが、合法的に節税することで支払う税額を軽減できれば、その部分が利益に変わるのです。
したがって、不動産投資では税金に詳しければ有利だと言われます。
そこで、今回は不動産投資に欠かせない節税効果を持つ減価償却の仕組みについて紹介しましょう。
不動産投資では、株式など他の投資と異なり賃貸物件という実物資産を所有するので、取得費用を必要経費として計上できるのが特徴です。
物件の構造により計上できる期間などが異なるので、節税のためには事前に内容を把握しておきましょう。
目次
1. 不動産投資における減価償却費の仕組み
不動産投資における減価償却費は、オーナーにとって確定申告時に経費計上でき、節税効果を受けられるのでありがたい仕組みだと言えます。
しかし、曖昧な知識では受けられるメリットも限られるでしょう。
減価償却とは簡単に言うと「モノの劣化代」です。
まず、内部設備を含む建物という「固定資産」は時間の経過とともに古くなり、その価値はどんどん減っていきます。このような資産を「減価償却資産」と言います。
したがって、時間が経っても古くなったり価値が下がったりしない土地は減価償却資産ではありません。
減価償却資産を取得するのにかかった金額を「法定耐用年数」に従って、その期間必要経費として計上する手続きのことを「減価償却」。
その計上する金額を「減価償却費」と言います。
不動産の減価償却に関する規定
不動産の減価償却の規定は、税法により定められています。
なぜなら、減価償却の計算方法を定めておかないと納税者が自分に都合よく計算してしまうからです。
そこで、減価償却の対象や計算方法を確認する必要があります。
不動産投資における減価償却の対象となるもの
減価償却の対象になるのは建物だけなので、減価償却費を計算するためには土地と建物の取得費用を分けておかなければいけません。
さらに、建物本体と設備の計算方法が異なるので、それぞれの取得費用も分けておく必要があります。
建物の耐用年数によって変わる
減価償却と密接に関わっているのが「耐用年数」。固定資産が何年間使用に耐えられるのかを表した言葉です。
建物の耐用年数は、モノによって税法で規定されていますが、ここでは不動産についての耐用年数のみ記載します。
用途 | 木造 | S造(鉄骨) 骨格材の厚さが 3㎜以下 |
S造(鉄骨) 骨格材の厚さが 3㎜を超え、4㎜以下のもの |
S造(鉄骨) 骨格材の厚さが 4㎜を超えるもの |
RC造 | SRC造 |
住宅用 | 22年 | 19年 | 27年 | 34年 | 47年 | 47年 |
店舗用 | 22年 | 19年 | 27年 | 34年 | 39年 | 39年 |
事務所用 | 24年 | 22年 | 30年 | 38年 | 50年 | 50年 |
飲食店用 | 20年 | 19年 | 25年 | 31年 | 34/41年 | 34/41年 |
他にも旅館・ホテル・病院用や公衆浴場用、工場・倉庫用など詳しく分かれていますがここでは割愛します。
詳しくは国税庁HPをご覧ください。
また、税制が改正されることで法定耐用年数が変わることもあります。
中古物件を購入した場合の耐用年数
法定耐用年数の一部を経過した中古資産を購入したときの耐用年数は、新しい時から経過した年数をそのまま引く計算ではなく、
(新品の場合の耐用年数-中古資産の経過期間)+(中古資産の経過期間×20%)
で求めることができます。
計算結果で中古資産の耐用年数が2年未満の場合は、2年とします。
耐用年数を超過した場合はどうなる?
購入する時点ですでに法定耐用年数が過ぎてしまっている中古物件に関しては、法定耐用年数の20%を耐用年数とすることができます。
例えば木造なら22年×20%=4.4年、耐用年数は4年になります。
2. 不動産投資における減価償却のメリット
不動産投資における減価償却のメリットを知ることで、あらかじめ効果的な対策を講じることができるでしょう。
支出を伴わずに経費として計上できる
経費とは、一般的に支出した金額を計上します。
例えば、賃貸マンションを運営するために部屋を修理したので支払った修理代を修繕費として計上するようなケース。
しかし、減価償却費は実際に支出があったわけではないのに経費として計上できるというメリットがあります。
建物が古くなって価値が減少してきたので、減少した分を経費として計上するという考え方です。
設備投資をした場合も減価償却できる
設備投資という投資物件にとっての将来的な投資に対しても減価償却を利用することができます。
設備については建物よりも耐用年数が短いため初期の減価償却費が多くなるのでキャッシュフローが良くなるのです。
3. 不動産投資における減価償却のデメリット
不動産投資の減価償却はメリットばかりではありません。
事前対策を講じるためには、デメリットも押えておく必要があるでしょう。
減価償却期間が過ぎると税金が増える
不動産投資では当初減価償却を利用して、実際には支出がないのにもかかわらず多くを経費に計上できます。
しかし、一定期間が経過すると減価償却できなくなり、銀行ローンの利息も減少するので経費に入れるものが少なくなるのです。
したがって、実際にはローンなどを支払っているのにもかかわらず、計上する経費が少なくなるので税金を多く納めることになります。
4. 減価償却費の計算が必要になるケース
そもそも、減価償却費の計算が必要になるのは、どのようなケースでしょうか?
減価償却費とは経費として計上し収益から差し引くものです。
したがって、家賃収入や売却益などの収益があるケースになります。
不動産収入がある場合
例えば、賃貸マンションやアパートを経営して家賃収入を得るのであれば不動産収入があると言えます。
不動産収入があれば利益に対して所得税を納めなければなりません。
減価償却費を計上して利益から差し引き、所得税を軽減することができるのです。
不動産を売却する場合
不動産を売却すれば、売却代金を手にすることができます。
売却により譲渡所得という収益を得るのであれば「譲渡所得税」を納めなければいけません。
譲渡所得の計算は 「譲渡所得=売却価格-(取得費+諸経費)-特別控除」であり、減価償却費を購入価格から差し引いて取得費とするのです。
5. 減価償却費を計算する前にすべきこと
不動産投資における減価償却費を計算する準備段階として、事前にしておかなければならないことを紹介しましょう。
必要になる書類を用意する
取得価格が10万円以上で使用可能期間が1年以上のものは固定資産として計上することになり、全額を購入した年の必要経費にすることができません。
しかし、「少額減価償却資産の特例」を利用すれば全額を購入した年の必要経費にすることができます。
少額減価償却資産の特例を利用するためには「少額減価償却資産の取得価額に関する明細書」の添付が必要ですが、
青色申告決算書の「減価償却費の計算」欄に下記の内容を記載し、減価償却資産の明細を保管していれば提出を省略できます。
- 少額減価償却資産の取得価額の合計額
- 少額減価償却資産について租税特別措置法第28条の2を適用する旨
- 少額減価償却資産の取得価額の明細を別途保管している旨
不動産と建物の価格を分ける
減価償却をするためには不動産を土地価格と建物価格に分けておかなければいけません。
買主として減価償却費を多くするためには建物価格の割合を多くすることです。
しかし、売主にとっては建物価格の割合を少なくしたほうが有利になります。
したがって、最終的には買主と売主との合意により土地や建物の割合は決定されます。
建物の構造を把握し、建物費用を期間で按分する
建物の構造により減価償却できる期間である法定耐用年数が異なります。
先の項で述べたように、鉄筋コンクリート造であれば47年・鉄骨造であれば34年・木造であれば22年などと定められており、
例えば鉄筋コンクリート造の建物であれば47年間にわたって毎年少しずつ経費として計上していくのです。
したがって、減価償却するためには、あらかじめ建物の構造を把握しておかなければいけません。
6. 不動産投資における減価償却費の計算方法
減価償却費の計算方法には大きく分けて定額法と定率法の2種類があります。
どちらの計算方法でも合計金額は変わることはありません。
簡単に言ってしまうと毎年一定金額を払い続けるか、最初に多く払って後で楽をするかの違いです。
ただし、平成28年度4月1日以降に取得した不動産の設備の償却方法は定額法のみ。
定額法の償却率と定率法の償却率には、それぞれ税法で決められた数字があるので、国税庁の「減価償却資産の償却率表」で確認してください。
定額法
定額法は耐用年数の期間中に費用を等分する方法です。
したがって、償却費は原則として毎年同額。
計算方法は
所得金額×定額法の償却率
定率法より最初の償却額が小さくなるので初期費用を抑えることができる、
計算方法が単純で償却額や未償却残高が算出しやすくなるなどのメリットがあります。
定率法
定率法は償却資産のうち一定の割合を毎年償却していく方法です。
定率法の償却率は定額法の償却率の2.5倍になっているので、
最初の償却率が大きくなりますが、徐々に償却費が減っていきます。
計算方法は
未償却残高×定率法の償却率
上記の式で減価償却をしていても残りの金額が1円になることがないため、一定の償却率を下回るとその後は定額で償却していくという仕組みに。
最初に多額の費用が計上されるので早期の節税ができる、
どんどん償却額が減っていくというメリットがあるのです。
簡便法
簡便法とは国税庁が中古資産の償却について定めている計算方法です。
- 築年数が法定耐用年数の一部を経過している場合…耐用年数=( 法定耐用年数-築年数)+築年数×0.2
- 築年数が法定耐用年数のすべてを経過している場合…耐用年数=法定耐用年数×0.2
になります。
見積法
見積法とは、実際の使用可能年数に応じて減価償却年数を設定します。
したがって、鑑定などの手間が生じるため、実務的には簡便法が使われるのが一般的です。
税制改正後の減価償却の計算方法
平成19年度税制改正のため、平成19年4月1日以後に取得する減価償却資産は償却可能限度額および残存価額が廃止されたので、1円まで償却することになりました。
また、定率法の計算方法も大幅に改正されています。
7. 不動産投資の減価償却のシミュレーションツールを紹介|Excel・サイト
実際に不動産投資の減価償却のシミュレーションができるツールを紹介しているサイトがあります。
シミュレーションにより具体的な数字を知ることができるでしょう。
○Excelシートの紹介サイト… https://e-dge.life/post-947/#i-5
○シミュレーションサイト… https://keisan.casio.jp/exec/system/1339479951
8. 不動産投資で減価償却を利用する上でのポイント
不動産投資で成功するためには、減価償却費を最大限に利用することがポイントのひとつだと言えるでしょう。
そのためには、あらかじめ有利な減価償却の仕方を確認しておく必要があります。
建物価格の割合が高い物件を探す
減価償却の対象になるのは建物だけであり土地は対象になりません。
したがって、物件を購入する時には建物価格の割合が高い物件を探してください。
なぜなら、建物価格の高い物件を選んだ方が減価償却費の計上額が増えるからです。
土地価格3,000万円・建物価格2,000万円の場合と土地価格2,000万円・建物価格3,000万円の場合があります。
建物価格が3,000万円の物件の方が減価償却費を高く計上することができるのです。
出口戦略をしっかりと計画する
減価償却が関係してくるのは購入時だけではありません。売却時にも減価償却は関係しています。
したがって、 有利に減価償却を利用するためには出口戦略をしっかりと計画することも必要です。
不動産を売却すれば譲渡所得を計算することになります。
譲渡所得の計算は「譲渡所得=売却価格-(取得費+諸経費)-特別控除」であり、
購入価格から減価償却費を差し引いて取得費を求めなければいけません。
デッドクロスに注意する
デッドクロスとは、簡単に言うと「減価償却費がローンの元金返済額を上回る状態」のことです。
ローンの返済方法を元金利等返済にしている場合は、ローン期間と返済が進むと金利の返済分が減り、元金返済分が増えます。
ローンで経費として計上できるのは金利部分のみなので、実際にお金は出るにもかかわらず元金返済分は経費にできなくなり、
最後の方には耐用年数も過ぎて減価償却が計上できなくなるのです。
したがって、黒字経営しているにもかかわらず支払う所得税だけ膨大になり、黒字倒産もあり得るので注意が必要です。
デッドクロスを避けるには
- 自己資金を入れて購入
- ローンを元金均等で組む
- ローンの借り換え
- 資産の売却
などがポイントになります。
経費に計上できるのは借入金の金利部分のみ
借入金については、金利部分のみが経費として計上できます。
元金部分は返済しても経費として計上することはできません。
減価償却費は月計算で算出する必要がある
減価償却費は年単位で計上するのですが、月計算で算出しなければいけません。
たとえば、4月末に物件を購入したのであれば、その年の減価償却費は「1年分の減価償却費×4カ月/12カ月」になるのです。
9. 不動産投資では減価償却をうまく利用しよう!
不動産投資では減価償却費を利用して節税効果を高めることが、キャッシュフローを向上させるポイントになります。
なぜなら、減価償却費が多ければ多いほど支払う税額が少なくなるからです。
節税のためには、減価償却の仕組みを把握することが有効でしょう。
不動産投資の疑問や不安などは、MIRAIMOの無料オンライン相談へお気軽にご相談ください。
不動産投資の専門家からのアドバイスを受けることで、効果的かつ効率的な賃貸経営が可能になるでしょう。