不動産賃貸経営をはじめると確定申告が必要なので、税金の基礎知識が必要に。
なかでも必要経費には注意が必要です。必要経費というと賃貸経営にかかった全ての費用が全て計上できると思っている方も多いかもしれませんが、実際はそうではありません。
税制上、必要経費として認められるものと、認められないものがはっきりと区分されているので、しっかり理解しておく必要があります。
また必要経費は必ずしもお金の出入りがあるとは限りません。
たとえば建物や設備の減価償却費はお金の出入りはありませんが、必要経費として計上できます。これはつい忘れがちな経費です。もし申告の中で必要経費の計上を忘れていたとしても税務署はそのことを教えてはくれないんです。確定申告は全て自己責任なので、控除できるものに関しては自分で学ばなくてはなりません。
もし間違った申告をすると、後から追加の納税を求められることになってしまいます。不動産の賃貸経営において確定申告は大事な仕事の一つ。
税金の仕組みと経費計上できるものをしっかり理解して、不動産所得を少しでも減らし、資産を手元に残せるようにしましょう。
1. 不動産所得の計算方法
賃貸収入があれば所得税がかかるため、正確な所得金額を計算して確定申告しなければなりません。計算方法は、家賃収入から必要経費を差し引いたものが不動産所得になるという、とてもシンプルなもの。
不動産所得=総収入金額-必要経費
しかし収入とみなされるもの、また必要経費に認められるものなどはルールがあるので、それぞれ見ていきましょう。
不動産所得に対する税金の考え方
不動産所得には所得税と住民税が課税されます。所得税は累進課税が採用されているので、所得が高くなればなるほど税率が高くなります。
また所得は10種類あり、個人が複数の所得を持っている場合、全ての所得を合計してから所得税額を求めるという課税方法(総合課税)と、それぞれの所得別に所得税額を計算するという方法(分離課税)が分かれており、取扱いが変わります。
・総合課税‥‥利子所得・配当所得・事業所得・不動産所得・給与所得・譲渡所得・一時所得・雑所得
・分離課税‥‥山林所得・譲渡所得(土地・建物・株の売却など)・一時所得・雑所得(先物取引・FXの利益)
注)譲渡所得、一時所得、雑所得は内容によって総合課税と分離課税のいずれかに該当
サラリーマンが家賃収入を得ている場合、まず会社からもらう給料は所得税法上では「給与所得」、家賃収入は「不動産所得」に該当します。
この二つの所得は「総合課税」になるので、会社の給料と家賃収入を合計し、必要経費があればそこから差し引いて所得税を計算することになります。総合課税は分離課税より支払う税金が少なくなることもあるので、サラリーマンで家賃収入がある人は、所得税や住民税においてお得な場合があります。
ちなみに所得税と住民税の計算方法は以下の通りです。
所得税=不動産所得(賃貸収入-必要経費)×所得税率
住民税=不動産所得(賃貸収入-必要経費)×10%+4,000円
住民税については市区町村によって多少異なるため、お住まいの市区町村で確認しましょう。
2. 所得税を減らすために役立つ必要経費
それでは不動産所得における必要経費について見てみましょう。
1. 共益費(管理費)・修繕費・町内会費
マンションの共益費とは共有部分の維持・点検・清掃・修理などに関する費用のこと。ここでいう共有部分とは次のような箇所になります。
- エントランス
- 廊下
- エレベーター
- 給排水設備
一方で管理費は共益費に含まれる場合もありますが、厳密には少し違いがあります。管理費とはマンション管理全般に関する費用のことで、ほとんどのマンションでは管理会社が入っていて、こうした業務全般を行っています。管理会社の主な仕事は次の通りです。
- マンションの事務処理
- 管理人の配置
- 共用部分の維持管理
マンションによっては管理人が常駐していないところもありますが、「管理人がいない=マンションの管理がされていない」というわけではありません。見えないところでも管理はちゃんと行われているので、管理費は発生しているのです。
修繕積立金はマンションの外壁・廊下といった共有部分の修繕に関する費用のこと。一般的に修繕積立金の扱いは、将来的に必要が生じるであろう修繕に対して、積み立てを行い出費に備えるものという性質上、積み立てをしている間は修繕していないことが多いと思います。すると修繕積立金自体は、「積み立てている間においては必要となる修繕をしていない」という理由から必要経費算入が認められないことになります。
しかしながら、マンション区分所有者の場合は管理組合へ毎月修繕積立金を支払わなければなりません。実際の修繕に関する計画は管理組合に決定権があるため、修繕積立金の使途に対して個人一人の意見が反映されるわけでもありません。また一旦支払った修繕積立金は区分所有者には返還されません。
国税庁ではこうした状況を考慮し、ある一定の条件を満たせば区分所有者の修繕積立金は必要経費算入を認めています。ただし修繕積立金の詳細に関してはマンションによって違うので、管理規約で確認しましょう。
2. 賃貸管理代行手数料
賃貸マンションの管理業務を賃貸管理会社に委託している場合は、支払った手数料を必要経費への計上が可能。賃貸管理会社が行う主な仕事は以下の通りです。
- 家賃の集金
- 入居者募集
- 入居者のトラブル
- 入居・退去に関する手続き
手数料は賃貸管理会社によって異なりますが、相場としては月額賃料の3%~10%程度と言われています。通常マンションの管理は管理会社が行っていますが、こちらは建物管理会社といって、マンション建物全体の管理を行います。
一方賃貸管理会社とは、大家から委託を受けたマンション一室における賃貸業務の代行なので、一般的に建物管理会社と賃貸管理会社はわけて考えられています。
3. 火災保険・地震保険
火災保険や地震保険は、該当する年にかかった保険料を必要経費に計上できます。1年更新の場合なら、そのまま全額を必要経費に計上できます。しかし多くの場合、5年、10年、20年といった長期契約を結んでいることが多いはず。その場合は1年分を計算して、その分だけ必要経費に計上します。残りの保険料は毎年1年分を分割して計上していくことになります。
ちなみに銀行でローンを組んでいる場合は、ローン返済期間をカバーする火災保険が申し込まれている場合が多いはず。というのも銀行は融資を行う際、火災保険に質権設定をして万が一火事などが起こって物件に損害があっても、銀行は保険金を受け取れるようにしています。リスク回避の対策ですが、最近は銀行によって質権設定をしないところもあります。
4. ローンの金利
銀行からローンの融資を受けて物件を購入した場合は、ローンの金利分のみを必要経費に計上できます。毎月の返済額は元本と利息の合計になっています。毎年銀行から返済の内訳書が送付されてきますので、そこで金額を確認しましょう。その内、金利分だけを合計して、「借入金利子」という項目として必要経費に計上します。元本部分は必要経費にあたらないので注意して下さい。
5. 減価償却費
減価償却費は年数が経つごとに建物の価値が下がっていくのに対して必要経費として計上できるものです。
よって土地部分に対しては経年劣化による価値の減少がないため、減価償却の対象外となります。減価償却費の計算に必要なものは、次の3つです。
- マンション購入価格(取得価格)
- 償却率(定額法、又は定額法)
- 建物の耐用年数
減価償却費はマンションを取得した年に、購入価格の全額を必要経費として計上するわけではありません。
購入価格に償却率を掛けたものが減価償却費となり、毎年少しずつ計上していくことになります。減価償却費の計算方法は、次の通りです。
減価償却費=取得価格×償却率(耐用年数に応じる)
続いて償却率についてですが、定額法と定率法の2種類があります。定額法とは耐用年数の間ずっと同額で償却していく方法。一方、定率法は最初の償却費が多く、その後はだんだん減っていきます。
最後に耐用年数について。建物の耐用年数は構造別に次のように決まっています。
主な減価償却資産の耐用年数
- 鉄筋コンクリート 27年
- 重量鉄骨 34年
- 軽量鉄骨 27年
- 木造 22年
また減価償却費の対象は建物以外にも施設設備も含まれます。たとえばリノベーションなど大規模な工事をした場合の工事費は「資本的支出」とみなされ、減価償却費として計上できます。ただしハウスクリーニングや壁紙張り替えといった原状回復のために行われた工事は「修繕費」とみなされ、減価償却費に該当しないので注意して下さい。
6. 貸倒引当金
貸倒引当金とは売掛金や貸付金などが回収が見込めない場合、マイナス計上することをいいます。不動産においては滞納する可能性のある家賃に対して貸倒引当金として計上。
7. 固定資産税・都市計画税
毎年1月1日の時点で、不動産を所有している人が市区町村などの地方自治体に課される税金。中古物件を購入した場合などは、売主が既に税金を納めているので、決済時に精算されるのでその時に証明書をしっかりもらっておいて下さい。
8. 不動産取得税
不動産を購入した時に一度だけかかる税金です。税額は評価額の3%で、都道府県に納税します。
9. 登録免許税
不動産を購入したら登記簿謄本に所有権移転、抵当権設定などの登記を行う必要があります。この登記にかかる税金が登録免許税で、国に納付します。
10. 印紙代
印紙税法により課税文書の作成に対して印紙税がかかります。不動産売買においては、売買契約書、ローン融資の際の金銭消費貸借契約書に印紙の貼り付けが必要で、印紙代は契約書の種類によって異なります。
11. 司法書士・税理士への手数料
不動産登記の際は司法書士に登記を委託するので、その時に支払った報酬は必要経費に計上。また確定申告など税金に関して税理士に支払った報酬も、必要経費に計上できます。
12. 地代家賃
事務所の家賃、月極駐車場、トランクルームなど賃貸にかかる費用を地代家賃として必要経費に計上できます。
13. 接待交際費・交通費など
賃貸経営に関する交通費、宿泊費、交際費は必要経費に計上できます。いずれも領収書が必要となりますが、自家用車を利用した際のガソリン代や保険料などは、私用と区別したものであることを客観的に説明できれば必要経費に計上できます。
14. 消耗品費
カメラ・パソコン・プリンター・文房具・コピー代など不動産投資に必要な消耗品も費用に計上することができます。
15. 事業的規模(5棟10室)になると経費計上できるもの
不動産の賃貸経営において、貸家で5棟以上、あるいはマンションで10室以上、駐車場で50台以上になると事業的規模として認められ青色申告になり、税法上さまざまなメリットがあります。
滞納された家賃
滞納家賃については、回収できない年に必要経費として計上することが認められています。もし事業的規模でなければ必要経費に計上できません。
従業員への給料
事業的規模の場合は、配偶者や子どもなどの家族に対する給料を控除できます。これは「青色事業専従者給与」になり、基本的に上限はありません。もし白色申告であれば、配偶者給与86万円、配偶者以外の家族は50万円控除と上限があります。この場合、配偶者以外の家族は生計同一でなければならないので注意して下さい。
災害による被害総額
火災や地震などの自然災害で建物が被害を受けた場合、損失額の全てを必要経費に計上が可能。損失額が多くて該当年度に消化しきれない場合は、3年の損失繰り越しができます。
3. 不動産所得における必要経費として計上できないもの
不動産所得で必要経費として認められないものをご紹介します。
- 不動産売却の際の譲渡損
- ローン返済分の元本部分
- 自宅にかかる費用
- 私用に関する費用
- 所得に関する所得税・住民税
特に私生活で使用しているものと、賃貸経営で使用したものとの区分が難しい場合は注意が必要です。ここは税務署でもチェックが入りやすいポイントなので、客観的に見てわかりやすく、納得してもらえることが重要です。
賃貸経営を行う場合には、経営をするにあたって必要な経費以外のものは、原則経費として計上しないことに留意しましょう。
裁判事例から参考にする経費計上NGな家事関連費
過去の判例で不動産賃貸経営を行っていたサラリーマンが、必要経費が認められないことを不服として訴訟を起こしました。その際、請求人が請求した経費をご紹介します。
- 車両費
- 自宅の家賃や電気代・水道光熱費
- インターネット使用料
- 電話の通話料
- 青色事業専従者給与
- その他(スーツ、コンタクトレンズ代など)
判決では上記経費は家事上の経費に該当するものであるため、不動産所得に関する必要経費とは認められませんでした。税務署と裁判所のいずれも不動産物件に関する費用に対して、具体的内容の提示と証拠を明らかにすべきだという主張で一致しています。
サラリーマンの場合は、生活に関する費用と、不動産賃貸に関する費用を明確に示す必要がある上、それぞれを按分した場合に家事の方が圧倒的に多いと認められれば、たとえ不動産賃貸に要した費用が存在したとしても経費計上が認められません。
必要経費の計上をするときは、はっきりと業務との関連性を示す証拠の提示を行いましょう。
関連づける証拠や記録があれば、電話代や通信費などは係る費用のうち30〜40%は経費として認められることもあります。
日頃から費用をどこにどのように使ったか記録をつけておくことも大切ですね。
4. 経費を制するものは、賃貸経営を制する
不動産の賃貸経営において確定申告をしっかり理解しておくことは、将来的な不動産投資の計画やビジョンに大きく影響してきます。節税は賃貸経営において、手元にいくらの現金が残るかということに直結する非常に大事なポイントです。必要な分は納税しなければなりませんが、余分に払う必要はないので、節税はしっかり行いましょう。
所得控除を受けるにあたって必要経費の内容をしっかり把握し、健全な賃貸経営を行って利益を出していくのが理想的です。
今回は必要経費について詳しく説明しましたがご理解いただけましたか?経費の申請漏れを防ぐことで不動産所得を最大限少なくすることができます。
この記事を参考に迫る確定申告の準備をしっかり行いましょう。
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