結婚や親との同居・転勤、また投資用不動産を売却するなどのシーンで、不動産を売却しなければならないことはよくあることです。
不動産を売却し利益を得た場合には譲渡所得税を支払わなければなりません。
できれば税金はなるべく少なくして、手元に残るお金を多くしたいですよね。
この記事では、不動産を売却した場合にかかる譲渡所得税の計算方法や確定申告の内容、マイホームの売却・買い替えをした際に使える特例などについて解説します。
目次
1. 譲渡所得税とは土地や建物の売却時にかかる税金
譲渡所得税とは、土地や建物などの不動産や株式・車などの資産を譲渡して得られる所得に対して課される税金を言います。
譲渡所得には2種類あり、土地や建物などの不動産・株式を売却して得られる所得は、給与所得などと別に計算され課税される申告分離課税。
車やゴルフ等の会員権・貴金属・骨董品などを売却して得られる所得は、ほかの所得と合計し課税する総合課税です。
土地や建物など不動産の売却にかかわる譲渡所得税について、説明しましょう。
譲渡所得税の税率は2種類ある!
譲渡所得は売却した年の1月1日時点で、
不動産の所有期間が5年以下の場合には短期譲渡所得、5年超は長期譲渡所得となり税率が異なってきます。
譲渡所得は、次の計算式で表せます。
※取得費とは購入代金と購入物件の取得に要した費用
※譲渡費用は売却に要した費用
短期譲渡所得と計算方法
短期譲渡所得に該当する不動産は、売却した年の1月1日現在で所有期間が5年以内のもの。
税率は下記の通り(所得税に復興特別所得税含む)
所得税 | 住民税 | 合計 |
30.63% | 9% | 39.63% |
4年間保有した建物を売却し、700万円の利益を得た場合の税金の計算は、次のようになります。
・所得税の計算
700万円×30%=210万円
・復興特別所得税
210万円×2.1%=44,100円
・住民税
700万円×9%=63万円
長期譲渡所得と計算方法
長期譲渡所得に該当する不動産は、売却した年の1月1日現在で所有期間が5年を超えたもの。
税率は下記の通り(所得税に復興特別所得税含む)
所得税 | 住民税 | 合計 |
15.315% | 5% | 20.315% |
10年間保有した不動産を売却した場合の計算は、次のようになります。
長期譲渡所得金額:8,000万円
土地・建物の譲渡価格:5,000万円
土地・建物の取得費:400万円
8,000万円-(5,000+400)=2,600万円に対して所得税がかかります。
・譲渡所得税の計算
2,600万円×15%=390万円
・復興特別所得税
390万円×2.1%=81,800円
・住民税
2,600万円×5%=130万円
譲渡所得税の計算をする際の経費になる!不動産の「取得費」と「譲渡費用」
譲渡所得を計算するときには、不動産を譲渡するのにかかった「譲渡費用」だけでなく、不動産の購入時にかかった経費である「取得費」も差し引いて計算します。
取得費と譲渡費用には何が含まれるか解説しましょう。
譲渡費用とは
不動産の譲渡費用は、不動産を売却するのに直接かかった費用のことです。
譲渡費用に含まれるものは以下の通り。
- 仲介手数料
- 印紙税(自分で負担した分)
- 立退料(貸家で、借主に部屋を明け渡してもらう必要がある場合)
- 家屋の取り壊し費用や損失額
- 違約金(既に売買契約を締結した後に、不動産を更に有利な条件で売る場合)
- 地主の承諾をもらうための名義書換料(借地権を売る場合)
取得費とは|経費に算入したものは含まない
不動産の取得費の主のものには次のようなものがありますが、事業所得などの必要経費に算入したものは含みません。
- 土地や建物の購入代金
- 建築費用
- 登録免許税・不動産取得税・印紙税などの税金
- 仲介手数料
- 測量費
- 改良費
- 整地費
- 建物の取り壊し費用
- 設備費
- 借入金利子
なお土地は購入費や手数料がそのまま取得費になりますが、建物は購入費から減価償却分を差し引かねばなりません。
また購入金額が不明であるときは、売却金額の5%を取得費とすることができます。
法人が不動産を売却した時の譲渡所得税は?|法人は分離課税ではない
個人の譲渡所得は、10に分類される所得項目に分けて税額を算出する分離課税。
しかし法人の場合には、すべての収入を合計し、その金額から経費を引いて利益を出し課税されます。
2. 不動産を売却したあとの確定申告の方法を解説|売却や買い換えに使える特例を紹介!
不動産を売却した場合には、確定申告を行わなければなりません。
確定申告をする際には、マイホームの売却や買い替えに使える特別控除が利用できます。
不動産売却後に確定申告が必要になる場合とは?
給与所得者の納税については、勤務する会社が年末調整で手続きをしてくれるので確定申告は原則不要です。
しかし不動産を売却し、譲渡所得を得た場合には確定申告をおこない、所得税を支払わなければなりません。
なお住民税については所得税の申告に基づき、翌年課税されます。
確定申告を行うのは売却後のいつ?
不動産を売却して利益を得た場合、翌年の2月16日~3月15日に確定申告を行い所得税の支払いを行わなければなりません。
確定申告に必要な書類とは?
確定申告に必要な書類としては次のようなものがあります。
必要書類 | 入手先 |
確定申告書B ・申告書第三表/分離課税用 | 税務署、もしくは国税庁HPより入手 |
譲渡所得の内訳書(確定申告書付表と計算明細書) | |
戸籍の附票 | 売却不動産がある市区町村より入手 |
売買契約書・建築請負契約書の写し | 取得時に不動産会社より入手 |
一般媒介契約書 | |
登記費用など諸費用の領収証写し | |
売買契約書と領収証 | 売却時に不動産会社より入手 |
仲介手数料の領収証 | |
登記費用など諸費用の領収証 | |
売却した不動産の全部事項証明書 | 法務局より入手 |
なお、特例措置を受ける場合には別途書類が必要な場合もあります。
減価償却に注意|自宅マンションを売却した場合
自宅のマンションを売却し確定申告をした場合には、建物部分の減価償却を計算しなければなりません。
次に減価償却の内容と計算方法について説明しましょう。
減価償却とは?
建物は年数を経るにつれて、価値が減少していきます。
そこで企業会計法では、減少した価値を金額に変えて算出し、経費計上することが認められています。
一般的には事業用のマンションやアパートが対象ですが、自宅マンションの建物部分も減価償却の対象。
減価償却の計算方法
減価償却の計算方法は「定額法」と「定率法」があり、建物の償却は定額法が原則となっています。
すなわち、対象となる建物の金額を耐用年数で均等に割り、その金額を毎年償却していきます。
減価償却は次の計算式で算出します。
※取得価額は購入費・測量費・税金設置費や運賃・手数料・保険料など
※償却率は毎年喪失する価値の指標で、建物の構造と耐用年数によって割り出される
償却率の出し方
鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造のマンションの法定耐用年数は、47年と定められています。
またマンションを売却する際の耐用年数は、建物の構造による耐用年数から経過年数に0.8をかけた年数。
したがって鉄筋コンクリートで築30年のマンションの耐用年数は47年-(30年×0.8)=23年。
耐用年数23年の償却率は、償却率表により(減価償却資産の耐用年数等に関する省令)0.044と定められています。
減価償却費の計算シミュレーション
- 購入時の価格:4,000万円(諸費用含む)
- 経過年数:10年
- 構造:鉄筋コンクリート
- 譲渡価格:3,000万円(諸費用含む)
減価償却費の計算式により、それぞれの項目に数字を当てはめていきましょう。
初めに残存耐用年数を計算します。
残存耐用年数=法定耐用年数-(経過年数×0.8)なので
47年-(10年×0.8)=39年
耐用年数39年の償却率は0.026なので
減価償却費の計算式、建物購入費×0.9×償却率×経過年数に当てはめると
4,000万円×0.9×0.026×10=936万円になります。
3. 譲渡所得税が安くなる特例①|マイホームを売却した時に使える3つの特例
次にマイホームを売却した際には、利用できる特例があります。
譲渡所得を算出する際には、土地や建物の売却代金から取得費と譲渡費用を控除できますが、更に特例まで使えれば大きなメリットに。
3つの特例についてご紹介しましょう。
譲渡益が出た場合|3,000万円特別控除
3,000万円特別控除は、マイホームを売却して利益がでた場合に利用できる特例。
自宅を譲渡して利益を得た場合には、所有期間に関係なく最高3,000万円まで控除できます。
まず下記のマイホームの定義に合致することが必要です。
マイホームの定義とは
- 売却時にその家に住んでいること
- 住まなくなった日から数え、3年後の年末までに売却すること
- 建物を解体した場合には1年以内に売却すること
- 単身赴任などで、配偶者が居住中の不動産を売却した場合
適用条件
- 居住中の家屋を売却するか、家屋と一緒に敷地や借地権を売ること
- 家屋を取り壊したときは、譲渡契約締結までに土地を事業などの目的に使用していないこと
- 売主と買主が、親子・夫婦など特別な関係にないこと
譲渡益が出た場合|10年超所有軽減税率の特例
10年超所有している住宅を売却する場合、先ほど説明したマイホームの定義を満たし下記の適用条件を満たせば軽減税率の適用が受けられます。
下記の表に記載する軽減税率が適用になります。
なおこの特例は、3,000万円の特別控除の特例と併用できます。
しかし住宅ローン控除や特定居住用財産の買換え特例とは併用できません。
10年超所有軽減の税率
6,000万円以下の部分 | 6,000万円超の部分 | |
所得税 | 10.21% | 15.315% |
住民税 | 4% | 5% |
合計 | 14.21% | 20.315% |
※平成25年~平成49年までは、復興特別所得税2.1%が加算
適用条件
- 国内の自分が居住する家屋の売却、あるいは家屋と一緒に敷地を売却すること
- 以前居住していた家屋や敷地の場合は、居住しなくなって3年目の12月31日までに売却すること
- 土地および建物の所有期間が、売却した年の1月1日現在10年超であること
- 売却した年の前年または前々年にこの特例を受けていないこと
- マイホームの買い換えなど併用できない特例を受けていないこと
譲渡損が出た場合|特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
5年を超えて保有する居住用財産を売却した際に、マイホームの定義を満たし条件を満たせば適用になる特例です。
譲渡損がある場合、給与所得などのほかの所得と損益通算ができること。
損益通算をしても控除しききれない売却損がある場合、損益通算をした翌年以後3年間越控除が可能。
適用条件
- 2004年1月1日~2024年12月31日までに譲渡し、その年の1月1日現在、土地および建物の所有期間が5年超
- 譲渡契約を締結した日の前日現在、譲渡資産について住宅ローン等の借入残高があること
- 譲渡資産について、損失金額があること
- 住まなくなった場合はその日から3年を経過する年の12月31日までの間に譲渡されること
※損益通算:所得の赤字がある場合、他の所得の利益と差引をすることを言います。
4. 譲渡所得税が安くなる特例②|マイホームを買い替え・相続した時に使える2つの特例
次にマイホームを売却後、買い替えをした際に利用できる2つの特例をご紹介しましょう。
譲渡益が出た場合|特定居住用財産の買換え特例
譲渡所得が3,000万円以下の場合では、3,000万円特別控除を利用すれば税金の支払いはありません。
しかし売却益が3,000万円超になるようなときには、買換え特例を受けるか判断することに。
「特定居住用財産の買換え特例」は自宅を売却した金額より、買い替えたマイホームの金額の方が大きければ課税されないという特例。
この特例は、税金を免除するものではなく課税の繰り延べであり、将来買い替えた資産を売却する際には課税されることになります。
適用条件
譲渡資産の要件 |
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買換え資産の要件 |
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その他の要件 |
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譲渡損が出た場合|マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
マイホームを買い替えた際に、損失が出た場合の特例です。
自宅を買換えて損失が出た場合には、給与所得などの所得との損益通算が可能。
また翌年以後3年以内の各年の所得金額から、譲渡損失を繰越控除できます。
なお3年以内に他の特例を受けている場合には、適用除外。
適用条件
- 1998年1月1日~2024年12月31日までに売却した年の1月1日現在、土地および建物の所有期間が5年超
- 売却した年の前年の1月1日から翌年12月31日までの間マイホームを買換えること
- 購入した年の翌年12月31日までの間居住または居住見込み
- 資産の売却についての損失が生じている
- 購入年の年末、あるいは特例の適用を受けようとする年末において、住宅ローンの償還期間10年以上
譲渡資産についての適用要件
- 売却する年の1月1日現在、所有期間が5年超
- 住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に売却
買い換え資産についての適用要件
- 住宅の床面積が50㎡以上
- 区分所有する住宅では、居住部分の床面積が50㎡以上であること
相続した不動産を売却した時に使える特例|相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
相続した財産を売却すると譲渡所得が発生しますが、すでに相続税を支払っているので負担を軽減するために設けられた制度。
相続した財産を3年以内に譲渡した場合に、すでに納めた相続税の一部を譲渡時に支払う所得税から控除が可能。
適用条件
- 相続や遺贈により財産を取得したこと
- 財産を取得した人に相続税が課税されている
- 相続開始のあった日の翌日から、相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡
5. 譲渡所得税を理解して不動産の売却をスムーズにすませよう!
不動産を売却し利益が出れば、譲渡所得税を納めなければなりません。
譲渡所得税ではさまざまな特例を利用できるため、
特例や軽減措置の要件や適用基準を把握し、上手に節税するようにしましょう。
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