税金対策として、タワーマンションの高層階を購入する「タワマン節税」。2015年の相続税強化をきっかけに、富裕層の間で一大ブームとなりました。
タワーマンション高層階の市場価格と課税額を算出するための評価額、この二つが大きく乖離していることを利用して、富裕層の税金逃れの温床になっていましたが、平成29年度(2024年)の税制改正大綱でちょっぴりメスが入ることとなりました。
この税制改正大綱でメスが入った部分は、相続税ではなく「固定資産税」。
今までのタワーマンションの固定資産税は、階数に関係なく専有面積が同じであれば税負担も同額とされていました。
しかし、平成29年度税制改正大綱で、高層階になるほど税率が引き上げられ、低層階になるほど税率を引き下げることになりました。
今回は、このような税制の改正にいたった理由と、改正後の内容について詳しく解説します。
目次
1. H29年度にタワーマンションの固定資産税が見直しされた理由とは?
平成29年度税制改正大綱で、「居住用超高層建築物に係る課税の見直し」という項目が盛り込まれています。
居住用超高層建築物とは、高さが60mを超える居住用建築物のことで、いわゆるタワーマンションのことです。
内容を端的にいうと、20階を超えるタワーマンションの固定資産税・都市計画税・不動産取得税が、大幅に見直されることになったのです。
なぜ、このような見直しが入ったのでしょうか?
1-1. 富裕層に対しての課税の強化が目的である
1つは、富裕層への課税強化です。
毎年改正される税制は、その時々の政府の方針が大きく反映されています。
現在の政府の税金に対する方針は、以下のようになっています。
- 賃上げなどを条件に法人税は減税
- 高所得な会社員などには増税
- 不動産や海外資産を保有する富裕層への課税の強化
方針を見ると、低所得者の負担軽減の穴埋めに、富裕層の巧みな税金逃れの取り締まりを強化し、少しでも税金を徴収したいという思惑が見えてきます。
2015年の相続税率の引き上げや、今回の記事のタワーマンションの固定資産税の見直しも、富裕層への課税強化の一環の流れと言えるでしょう。
1-2. マンションの階層ごとにより金額を調整する事で、公平な税負担にする
もう1つの理由は、以前から指摘され続けてきたタワーマンションの高層階と低層階での不公平な税負担の解消です。
タワーマンションは、同じマンション内であっても、高層階と低層階では販売価格が大きく変わります。眺望や日当たりの良さ、ステータスといったメリットが加味され、高層階に行くほど販売価格が高くなるのです。
東京・銀座近くに立地するツインタワーマンション「DEUX TOURS(ドゥ・トゥール)」の場合、2024年5月現在、販売価格幅が6,000万円代~1億6,000万円代まであります。
専有面積や間取りにもよりますが、同じマンション内で約1億円もの価格差が生じています。
市場価格は高層階に行くほど高くなるのですが、固定資産税評価額は、階数は関係なく床面積に応じて算出されます。
つまり、1億6,000万円の高層階の部屋と6,000万円の低層階の部屋は、床面積が同じなら固定資産税の課税額は同額となってしまうのです。
この仕組みを富裕層は「節税」に利用していたわけですが、不公平な固定資産税の負担を改善するべく、タワーマンションの階によって税負担を調整することが、平成29年度税制改正大綱に盛り込まれることになりました。
2. タワーマンションの課税の改正内容とは?
ここでは平成29年度に改正されたタワーマンションの固定資産税の見直しに関する具体的な内容を、詳しく解説します。
2-1. 低層階は減税で高層階は増税になる
平成29年度税制改正では、タワーマンション全体に課税される固定資産税額は変わりませんが、階層に応じて割り振る固定資産税の税率が変わるようになりました。
・高さが60mを超える建築物については、当該居住用超高層建築物全体に係る固定資産税額を各区分所有者にあん分する際に用いる当該各区分所有者の専有部分の床面積を、住戸の所在する階層の差違による床面積当たりの取引単価の変化の傾向を反映するための補正率により補正する。
・階層別専有床面積補正率は、最近の取引価格の傾向を踏まえ、居住用超高層建築物の1階を100とし、階が一を増すごとに、これに、10を39で除した数を加えた数値とする。
簡単に言うと、高層階になるほど増税されて、低層階になるほど減税されます。
改正後、階数に応じて税率が変わる
高層階・・・1階上がるごとに約0.25%増税
中間層・・・税率の増減ほとんどなし
低層階・・・1階下がるごとに約0.25%減税
改正後の固定資産税算出方法は項目3-1でも、詳しく解説します。
2-2. 階層だけでなく、付帯している設備も評価の対象となる
タワーマンションの固定資産税の見直しの中には、階数による税率の変更だけでなく、部屋に付帯している設備も評価の対象となります。
天井の高さ、附帯設備の程度等について著しい差違がある場合には、その差違に応じた補正を行う。
天井高5.3mの高い居室や、眺望を楽しめる天然大理石の浴室など、他の居室と比べ特別な設備がある場合は、固定資産税率が高くなる可能性があります。
2-3. 適用時期や対象となる物件について
この新しい税制が適用されるのは、平成29年4月1日以降に売買契約を締結した新築タワーマンションです。
平成30年度から新たに課税されることとなる居住用超高層建築物(平成29年4月1日前に売買契約が締結された住戸を含むものを除く。)について適用する。
平成29年4月1日前に契約が締結したタワーマンションや、中古で購入したタワーマンションに関しては、改正前の税制が適用されます。
3. タワーマンション固定資産税は実際どのように変わるのか?
具体的な例と計算方法を紹介!
平成29年度税制改正後では、どのくらい固定資産税額が変わってくるのでしょうか?
具体的な計算方法を例をあげて説明します。
例)50階建てのタワーマンションの場合
各階の居室数:10戸
一棟の総居室数:500戸(床面積は全て統一)
一棟全体の固定資産税:1億円
平成29年度税制改正前は、階数に関係なく、一棟全体の固定資産税を部屋数で単純に割ることで算出できました。
1億円 ÷ 500(戸 )= 20万円
床面積が同じなら、どのフロアでも固定資産税額は一律20万円です。
そして、平成29年度税制改正後の計算方法は以下のように記載されています。
階層別専有床面積補正率は、最近の取引価格の傾向を踏まえ、居住用超高層建築物の1階を100とし、階が一を増すごとに、これに、10を39で除した数を加えた数値とする。
1階の専有面積を100とした場合、階が増えていくごとに、10を39で除した数(0.25641)を加算していきます。
階層別専有床面積補正率(%)=(階層-1)×0.25641+100
階数 | 改正前固定資産税額 | 階層別専有床面積補正率 | 改正後固定資産税額 | 差額 |
50階 | 20万円 | 112.5641% | 21.1万円 | +1.1万円 |
40階 | 20万円 | 110% | 20.6万円 | +0.6万円 |
30階 | 20万円 | 107.4359% | 20.2万円 | +0.2万円 |
20階 | 20万円 | 104.8718% | 19.7万円 | -0.3万円 |
10階 | 20万円 | 102.3077% | 19.2万円 | -0.8万円 |
1階 | 20万円 | 100% | 18.8万円 | -1.2万円 |
表を見てみると、改正後は1階と50階では固定資産税額に約2万円の差が出てくることになります。
4. タワーマンションの節税が問題になってる場合もある
相続税の節税対策として人気なタワーマンションですが、明らかに節税目的とわかる行為をした場合は、税務署から問題視される可能性があります。
タワーマンションを相続税評価額で申告して税務署から否認されたケースがあります。
2007年8月:タワーマンションを2億9300万円で購入
2007年9月:被相続人死亡
2008年7月:相続人が2億8500万円で売却
相続人は、専有面積に基づき相続税評価額を5800万円で申告しましたが、税務署は購入価格である2億9300万円で申告すべきと主張しました。
裁決では、税務署側の主張の購入価格2億9300万円での評価が相当であると判断されました。
このケースでは以下の2つのポイントにより、相続税評価額での申告が認められませんでした。
- 相続後に短期で売却したこと
- 購入価格と売却価格がほほ同等であること
節税目的でのタワーマンションの短期保有が明らかな場合は、相続税評価額ではなく他の合理的な方法で評価されることになります。
5. タワーマンションの固定資産税の改正で節税対策での活用は難しくなる可能性が!
平成29年度の税制改正大綱で、より現実的な固定資産税が課税されることになったタワーマンション。
今回メスが入ったのは固定資産税の部分ですが、これを機に相続税率の見直しが入る可能性も十分に考えられます。
以前のように、単純な節税対策でのタワーマンションの活用は難しくなりつつあります。
新築タワーマンションの購入を検討している場合は、毎年行われる税制改正の内容には十分に注意を払い、税金とのバランスを今まで以上に考慮する必要があります。
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