結婚や出産・親との同居などさまざまなシーンで、今住んでいる住宅を買い替えねばならない時があります。
しかし不動産を売却し利益が出ると、所得税や住民税を支払わなければなりません。
買換え特例を利用すれば、自宅の買い換えで発生した譲渡所得を先送りすることが可能に。
この記事では住宅の買い換えをする際に利用できる特例について解説しますので、上手に利用し損のないようにしましょう。
目次
- 不動産の買換え特例とは税金を先送り出来る制度のこと
- 不動産買換え特例を利用するための共通要件
- 不動産買換え特例①10年超所有軽減税率の特例
- 不動産買換え特例②特定居住用財産の買換え特例
- 不動産買換え特例③居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
- 不動産買換え特例④特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
- 不動産買換え特例⑤事業用資産の買換え特例
- 居住用財産を譲渡した際の3,000万円の特別控除の特例について
- 不動産の買換え特例の計算方法を確認しよう
- 3,000万円特別控除と併用できる場合がある
- 買換え特例のメリット・デメリット
- 不動産買換え特例を利用した方がよいケースと利用しないほうが良いケース
- 不動産買換え特例を利用するうえでの注意ポイント
- 買換え特例を上手に利用して不動産を購入しよう
不動産の買換え特例とは税金を先送り出来る制度のこと
不動産の買換え特例を利用すれば、自宅を買い換えた際に売却して得た譲渡所得税は、課税されません。
その年度に課税されず、先送りできます。
売却代金を新居費用に当てることが可能になる
一般的に売却した自宅が新たに購入した物件の価格より高い場合には、利益が発生するので譲渡所得税を支払わなければなりません。
しかし買換え特例を利用すれば、売却した時に税金を支払わず将来に先送りが可能。
そのため売却して得た利益を税金に支払うことなく、全額を新居の購入費やそれに関する費用に使えます。
譲渡所得税を先送りに出来る
この制度は税金をゼロにしたり軽減するものではなく、あくまで将来に繰り延べるもの。
したがって購入した新居を再度売却するときには、新たに生じる譲渡所得に先送りした譲渡所得を加えて課税されることになります。
買い換えの際には税金の支払いを免れますが、将来の税負担は重くなることを覚えておく必要があります。
不動産の買換え特例の種類は5つ
不動産の買換え特例については次の5つがあります。
①10年超所有軽減税率の特例
②特定居住用財産の買換え特例
③居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
④特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
⑤事業用資産の買換え特例
それぞれの特例の内容については、後程ひとつずつ解説を加えます。
不動産買換え特例を利用するための共通要件
買換え特例を利用する際の、共通の要件は次のとおりです。
旧居について
- 自分が居住している住宅または住まなくなってから3年以内家屋であること
- 所有期間が売却した年の1月1日において、住宅及び土地がともに10年超であること
- 居住期間が通算して10年以上であること
- 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
- 売却価格が1憶円以下であること
新居について
- 前の年1月1日から、売却の翌年12月31日までの間に買い換えること
- 取得する人が居住する住宅であること
- 新居を取得した日から、売却した年の翌年12月31日までの間に居住すること
その他の要件
- 売却した年の前年・前々年に3,000万円特別控除、軽減税率の特例をうけていないこと
- 住宅ローン控除との併用はできないこと
不動産買換え特例①10年超所有軽減税率の特例
10年超所有軽減税率の特例は10年を超えて住んでいた住宅を譲渡した場合に、税率を低くする特例。
この特例は後述する3,000万円の特例と併用することが可能です。
なお特例の適用を受けた場合の税率は、次の通りです。
譲渡所得金額※ | 所得税 | 住民税 |
6,000万円以下の部分 | 10% | 4% |
6,000万円超の部分 | 15% | 5% |
※3,000万円の特別控除の適用を受けた後の譲渡所得が対象となります。
※2037年までは「所得税」に対して一律2.1%をかけた「復興特別所得税」が課税されます。
不動産買換え特例②特定居住用財産の買換え特例
居住財産を買い換えた場合、住んでいた住宅よりも新たに購入した住宅のほうが高い場合には、課税されないという特例。
共通要件のほかに下記に該当することが必要です。
- 譲渡資産の金額が1憶円以下であること
- 新居の土地面積は500㎡以下、かつ建物の床面積は50㎡以上であること
- 中古の住宅は新築後25年以内または新耐震基準に適合していること
不動産買換え特例③居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
買い換えにより譲渡損失が発生した場合には、損益通算(ほかの所得の利益と相殺すること)できる特例。
なお譲渡した年だけでなく、その後3年間にわたりほかの所得から繰り越し控除できます。
適用要件
- 譲渡した年の1月1日で、所有期間が5年超であること
- 居住用財産で有れば期間を問わない
- 譲渡契約を締結した日の前日現在、住宅ローンの残高があること
不動産買換え特例④特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
買い換えだけでなく、売却のみでも利用できる特例。
売却した住宅よりもローン残高が大きい場合に、ほかの所得と損益通算が可能です。
さらに譲渡損が残るときには、翌年3年間ほかの所得から繰り越し控除が可能。
次の条件に合致することが必要です。
- 譲渡した年の1月1日で、所有期間が5年超であること
- 居住用財産で有れば期間を問わない
- 損益通算可能な損失金額は下記のどちらか少ない金額
①譲渡所得の計算上生じた損失の金額
②譲渡資産の住宅ローンの金額から譲渡対価の額を控除した残額 - 取得した年の12月31日又は特例の適用を受けようとする年の12月31日現在住宅ローン残高があること
不動産買換え特例⑤事業用資産の買換え特例
個人が事業用の不動産を買換えた際に、譲渡益を繰り延べることができる特例。
事業用資産の買換え特例を利用するための要件は次の通り。
- 譲渡資産および買換え資産は、ともに事業用であること
- 資産の条件
・売却資産…1月1日において所有期間が10年を超えること
・買い換え資産…土地の場合には敷地が300㎡以上であること - 買換え資産が土地のときは、売却資産の土地の面積の5倍以内であること
- 買換え資産は、購入から1年以内に事業に使うこと
居住用財産を譲渡した際の3,000万円の特別控除の特例について
譲渡所得を計算する際に、売却代金から3,000万円を控除できる特例。
所有期間や保有期間にかかわらず利用できます。
譲渡所得の計算式は次のようになります。
譲渡所得=売却代金-不動産の取得費-譲渡費用-3,000万円
この特例を適用するには、次の要件に合致することが必要です。
- 居住している自宅の売却であること
- 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の年末までに売却すること
- 住宅を取壊した場合は、1年以内にその敷地の売却契約が締結されていること
- 転単身赴任の場合に、配偶者等が居住している住宅の売却であること
- 3年に1度のみ適用が可能
前年および前々年において10年超所有軽減税率の特例以外の特例を受けていないこと - 所有期間・居住期間の定めはない
- 3,000万円の特別控除と軽減税率を併用する場合には10年超の所有期間が必要
不動産の買換え特例の計算方法を確認しよう
次に買換え特例を利用した譲渡所得の計算方法について説明しましょう。
買換え特例は買い換え代金より譲渡収入の方が大きく利益が出た場合に適用になります。
譲渡所得の算式
① 譲渡収入金額
譲渡資産の代金-買換え資産の代金
② 譲渡に要した費用
(譲渡資産の取得費+譲渡費用)×譲渡収入金額÷譲渡資産の譲渡代金
③譲渡所得
譲渡収入金額-譲渡に要した費用
④所得税額
譲渡所得×15%(住民税5%)
なお所得税額については、復興特別所得税2.1%がかかります。
計算例
次の例題の所得税額を計算します。
【譲渡資産】
・所有期間:25年の居住用財産(家屋および敷地)
・居住期間:15年
・譲渡価格:6,000万円
・取得費:800万円
・譲渡費用:200万円
【買換え資産】
・新築一戸建て住宅
・5,000万円
具体的な所得税額の計算式は、下記のようになります。
① 譲渡収入金額
6,000万円- 5,000万円=1,000万円
②譲渡に要した費用
(800万円+200万円)×1,000万円÷6,000万円=166万円
③譲渡所得
1,000万円-166万円=834万円
④ 所得税額
834万円×15%=125万円
3,000万円特別控除と併用できる場合がある
譲渡所得が3,000万円以下のケースでは、3,000万円特別控除により税金の支払いは発生しません。
3,000万円超の譲渡所得が発生した場合には、10年超所有軽減税率の特例と併用が可能。
したがって特定居住財産の買換え特例と3,000万円特別控除を比較し、どちらを採ったら得か試算することが必要です。
①10年超所有軽減税率の特例と3,000万円特別控除と併用した場合の所得税額
10年超所有軽減税率の特例と3,000万円特別控除は併用できるので、組み合わせを計算してみましょう。
計算例
・所有期間:15年
・取得費:不明(取得費が不明の場合は5%とすることが可能)
・譲渡金額:6,000万円
・譲渡費用:200万円
この場合次のように計算します。
①譲渡所得の計算
6,000万円-(6,000万円×5%+200万円)=5,500万円
② 課税譲渡所得の計算
5,500万円-3,000万円(特別控除)=2,500万円
③ 10年超所有軽減税率の特例を利用後の所得税
2,500万円×10%=250万円
なお所得税には2.1%の復興税がかかり、翌年には住民税が4%かかります。
②特定居住用財産の買換え特例を利用した場合の所得税額
特定居住用財産の買換え特例は、3,000万円特別控除と併用できません。
①のパターンと②を比較して、どちらが得か計算する必要があります。
上記例題で取得費を含み5,000万円で買い換えた時の税税額は次のようになります。
計算例
① 譲渡収入金額の計算
6,000万円-5,000万円=1,000万円
②取得費・譲渡費用の計算
(6,000万円×5%+200万円)×1,000万円÷6,000万円=83万円
③譲渡所得の計算
1,000万円-83万円=917万円
④ 所得税額
917万円×15%=137万円
この場合の137万円は買い換え資産に引き継がれます。
① と②で計算比較したところ、②の買換え特例を採った方が得ですが、税金は引き継がれることを考慮する必要が…。
なお買換え代金より譲渡代金の方が小さい場合には、課税所得はありません。
買換え特例のメリット・デメリット
特定居住用財産の買換え特例は譲渡所得を将来に繰り延べることができ、3,000万円の特別控除の特例は譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる制度です。
この2つは併用できませんのでどちらを利用した方が良いか、それぞれのメリットとデメリットについて考えてみましょう。
買換え特例
買換え特例を利用するメリット・デメリットには次のようなものがあります。
メリット
- 譲渡した年には、譲渡所得税が発生しないこと
- 譲渡所得が発生しないので、売却代金の全額を新居の購入資金に充当可能
- 事業用物件では、買い換えることにより収益性の高い住宅を購入できる
- 事業用物件を相続する場合も、収益性のある物件に買い換えられる
デメリット
- 税金の軽減ではなく、あくまでも課税の先送りであること
- そのため将来買換え資産を売却したときは、先送りした譲渡所得税が加えられるので大きな負担となる
- 建物の減価償却費が少なく計上されるので、毎年の所得税等の負担が増大することに
- 買換え特例を利用する際には多くの必要書類を用意しなければならない
…譲渡所得の内訳書・ 住民票・売買契約書・登記事項説明書など
3,000万円の特別控除
3,000万円の特別控除を利用するメリット・デメリットには次のようなものがあります。
メリット
- 適用要件が単純明快でわかりやすく、控除額が大きいこと
- 3,000万円以下の譲渡所得では、所得税が発生しない
- 夫婦共有名義の住宅であれば、二人で最高6,000万円まで控除可能
- 10年超の所有軽減税率の特例と併用ができるので有利
- 相続の場合には、売却金額の5%を取得費に経費計上できる
- 用意すべき書類は、譲渡所得の内訳書と 住民票のみである
デメリット
- 譲渡所得が3,000万円を超える場合には、税金が発生する
- 売却した翌年の国民健康保険料は、控除前の所得を基に算出するので保険料が大きくなる可能性がある
不動産買換え特例を利用した方がよいケースと利用しないほうが良いケース
不動産を買換えた場合、不動産買換え特例を利用した方がよいケースと3,000万円の特別控除の特例を利用した方が良い場合があります。
どちらを利用した方が得か説明しましょう。
買換え特例を利用したほうが良いケース
買換え特例を利用した方が良い場合に、利用しない方が良いケースを次にあげます。
将来的に自宅を売却する予定がない人
買い換える住宅を将来売却しなければ、先送りした譲渡所得税がかかることはありません。
したがって買換え特例を利用する価値は大きいと言えます。
住宅を売却するときに買換え特例を必ず利用する人
買換えた住宅を売却する場合、もう一度買換え特例を利用すれば譲渡所得税を再度先伸ばすことが可能。
この場合も買換え特例は有利なケースです。
新居の購入資金が十分でない人
新居の購入資金が十分でない人は、売却した住宅の譲渡所得税を繰り延べにできます。
したがって買い換え時点でお金がない人は、利用する価値は大きいでしょう。
買い換える物件が同額もしくは高い人
3,000万円の特別控除の特例を利用する場合には、3,000万円を超える譲渡所得があると課税されます。
したがって買換える物件が同額かそれ以上の場合に、買い換え特例を利用すれば譲渡所得税の発生はないので、活用価値は大。
買換え特例を利用しないほうが良いケース
それでは買換えと特例を利用した方が良い場合はどのようなものがあるのでしょうか。
3,000万円特別控除の特例に収まる場合
譲渡所得が3,000万円以内に収まる場合には、ただ単なる税金の先延ばしである買換え特例を利用する価値はありません。
3,000万円特別控除の特例を利用すれば、譲渡所得はゼロで所得税がかかりません。
また夫婦の共有名義であれば、それぞれの特例を利用し6,000万円まで控除可能なのは大きなメリット。
買い換え資産を5年以内に売却する場合
買換え特例を利用し、買換え後に再度住宅を売却する場合には5年以下かそれ以上で税金が大きく変わってきます。
5年超の長期譲渡所得の税率は20%ですが、5年以下短期譲渡所得は39%の高率となります。
したがって再度住宅を売却する予定がある場合には、簡単に買換え特例を使わない方が良いでしょう。
不動産買換え特例を利用するうえでの注意ポイント
不動産買換え特例を利用する上で、注意しなければならないポイントについて説明します。
令和元年12月31日までに買換えを済ませる必要がある
この特例は令和元年12月31日までに居住用財産を売却し、代わりの住宅に買い換える必要があります。
他の控除と重複適用が出来ないパターンがある
買換え特例は、ほかの控除と併用できない場合があります。
併用できる特例
マイホームを売ったときの軽減税率の特例と3,000万円の特別控除の特例は併用できます。
マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例と住宅ローン控除の組み合わせは可能です
併用できない特例
特定の居住用財産の買換えの特例と3,000万円の特別控除の特例は併用できません。
一般的には3,000万円の特別控除の特例を選ぶ人が多いのですが、自分のケースに当てはめ検討しましょう。
買換え特例を適用した方が損をする場合がある
買換え特例は譲渡所得税の先送りなので、再度買換えをした場合には大きな譲渡所得税がかかることも。
したがって買換え特例を利用した場合には、次の買い換えでは課税されるリスクを考慮しておく必要があります。
特例を使える要件を満たしても通知は来ない
買換え特例の要件を満たしていても、自動的に特例が適用になったり税務署から連絡があることはありません。
どの特例を利用したら最もメリットがあるのか、きちんと調べて申告をするようにしましょう。
購入する物件の土地面積に制限がある
特定の居住用財産の買換えの特例を受けるためには、買い換える建物の床面積が50㎡以上あること、また買い換える土地の面積が500㎡以下であることが必要。
また事業用の買換え資産の場合には、敷地が300㎡以上でなければなりません。
買換え特例を上手に利用して不動産を購入しよう
マイホームを買い換えたときは、一定の要件を満たせば、買換え特例の適用を受け譲渡所得を将来に繰り延べできます。
そのため売却で得た利益を、全額新居の購入資金に充てることが可能です。
しかし買換え特例は、あくまで税金の繰り延べに過ぎず、再度買換えた際にはその分税金が加算されることに。
住宅を取得する際には、さまざまな特例があるので、比較検討して最も良い方法を選ぶようにしましょう。
なお住宅を買い換える際に疑問点や不明の点があれば、MIRAIMOの「個別相談」やLINEに登録いただき、お気軽にご相談ください。