相続というものは多くの人が経験することです。相続は親族が亡くなるときに発生するので、「まだまだ先だ」と思う人もいるかもしれません。
しかし、特に相続財産が多い人は相続税が高額になるケースがあり、それは生前から節税できるケースもあるのです。
また、生前から節税していなくても、さまざま立場や相続する財産の種類によって控除されるなどの優遇措置があります。
それらの中には、相続が発生する前に知っておいた方が良いこともありますので、その特例の要件や内容は良く理解しておく必要があります。
そこで今回は、そもそも相続税の控除はどのような仕組みになっているか?を解説し、それぞれの特例の概要や内容を解説していきます。
相続は誰にでも起こりうることですので、必ず理解しておきましょう。
目次
1. 誰もが受けられる相続税の基礎控除について
相続税をはじめ、多くの税金には基礎控除がというものがあります。
まずは、相続税の基本となる基礎控除について、概要や適用する時期について理解しておきましょう。
1-1. みんなが受けられる基礎控除とはどんなもの?
基礎控除額は誰でも受けられる控除額であり、以下が基礎控除額になります。
【相続税の基礎控除額】
3,000万円+600万円×法定相続人の数
注意点は、2014年12月31日までは基礎控除額は「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」だったので、現在は基礎控除額が減額されたという点です。
仮に、基礎控除で相続評価額を全て控除することができれば、当然ながら相続税はゼロになります。
たとえば、法定相続人が3人いる場合は、「3,000万円+600万円×3人」なので4,800万円が基礎控除できます。
つまり、相続財産の評価額が4,800万円以下であれば、相続税は非課税になるというわけです。
1-2. 法定相続人の数による基礎控除額の早見表
前項の基礎控除額の、法定相続人の数による早見表は以下の通りです。
法定相続人の数 | 基礎控除額 |
1人 | 3,600万円 |
2人 | 4,200万円 |
3人 | 4,800万円 |
4人 | 5,400万円 |
5人 | 6,000万円 |
6人 | 6,600万円 |
1-3. 基礎控除額の適用はいつからされるのか?
上述したように、2014年12月31日と2015年1月1日からとでは相続税の基礎控除額に違いがあります。
どちらを適用するかについては、その財産を遺した人が「亡くなった日」が基準になるので、「相続税の申告をした日」などではない点は認識しておきましょう。
たとえば、被相続人(財産を遺した人)が2014年12月1日に死亡したとします。
そして、翌2015年2月25日に確定申告した場合は、死亡日が基礎控除額の基準になるので「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」が適用されます。
2. 相続財産から控除できる・課税対象外になるもの
相続税は相続する財産の評価額に税率を掛けて計算しますが、その「相続する財産」から控除できたり、債務がなくなったりする項目があります。
また、そもそも相続財産にはならないものもあるので、どの項目が該当するかを知っておきましょう。
2-1. 相続財産から控除できる・債務がなくなる項目一覧表
ではまず相続財産から控除できる、もしくは債務がなくなる項目について解説していきます。
また、紛らわしくて勘違いしがちな、控除できない項目も合わせて紹介します。
控除できる・債務がなくなる項目
控除できる項目は以下の通りです。
- 借入金未払い金(経費や税金など)
- 預り金(前受け金や敷金など)
- 求償できない(返還されない)債務
- お通夜や告別式の費用
- 枕経料や戒名料
- 埋葬・火葬・納骨費用
- 死体の捜索や運搬費用
たとえば、相続財産が5,000万円あったとします。そして、その被相続人(亡くなった人)に、借入金1,000万円、未払い金経費50万円があり、お通夜などの費用200万円がかかったとします。
その場合、相続財産の5,000万円からこれらの費用合計1,250万円を差し引き、相続財産は3,750万円になるということです。
控除できない項目
一方、以下の項目は相続財産から控除することはできません。
- お墓や仏壇など
- 求償可能(返還される)債務
- 香典返戻費用や法要にかかる費用
- 死体の解剖費用など
2-2. 相続税が課税されない財産一覧表
次に、そもそも相続税が課税されない財産を紹介します。
項目 | 具体的な費用 |
---|---|
香典等の費用 | 香典や花輪代など |
墓所等 | 墓石や神棚、仏壇などの、仏具、位牌等 (ただ、金の仏像などの投資目的の項目は相続財産になる) |
公益目的の費用 | 宗教や学術などの公益を目的とする事業を行い条件に合致する費用 |
心身障害者 扶養共済制度 |
心身障害者扶養共済制度に基づく給付金の受給権 |
生命保険金 | 相続人が支払いを受ける生命保険金で「500万円×法定相続人の数」の金額 |
退職金 | 相続人が支払いを受ける退職金で「500万円×法定相続人の数」の金額 |
寄付財産 | 国などに対して相続税の申告までに寄付した財産 |
上記のように、通常の考えで相続財産になり得ないものや、生命保険など全額相続財産に課税してしまったら、そもそも意味がなくなってしまうものが該当します。
3. 相続人の属性によって受ける事ができる控除7つ
相続人の属性や、相続財産に対して既に別の税金を支払っている場合などは、相続税から控除することができます。
これは、配偶者や未成年者などの特別な人に配慮したり、税金の二重払いを防いだりすることが狙いです。
①贈与税額の控除とは?
贈与税の控除とは、贈与税と相続税の二重払いを防ぐためにあります。
相続がはじまる3年以内に贈与によって受け取った財産は、実は相続税の課税対象になります。
しかし、贈与の際に贈与税を支払っていれば、相続税との二重払いを防止するため、贈与税額分は相続税額から控除できるという仕組みです。
②配偶者の控除とは?
配偶者は特別に控除額が大きくなっています。
金額としては、1.6億円もしくは法定相続分のどちらか高い方で控除を受けることができます。
なぜ配偶者だけこのような特別措置があるかというと、夫婦の財産は夫婦2人でつくられたという扱いだからです。
たとえ妻が専業主婦だったとしても、夫の収入は妻が生活を支えているからこそ成り立ちます。たとえ相続財産が全て夫名義だったとしても、その財産は妻も一緒に作り上げたと考えるため、控除額が大きくなっているのです。
ほかには、残された妻が生活に困らないようにするためという意味もあります。今は随分変わりましたが、昔は基本的に夫が働き妻が家庭を守るのことが主流でした。
そのため、夫が死亡してしまい相続財産にそのまま既定の税率を掛けてしまうと、残された妻が生活しにくくなる可能性があったのです。
また、配偶者とは婚姻関係が成立していることが前提になるので、内縁の夫や妻はこの配偶者控除は利用できません。
③未成年者の控除とは?
未成年者も前項の配偶者控除と同様、自活できる収入を得ていないことから一定の配慮があります。
具体的には、以下が控除額になります。
【未成年者の控除額】
「6万円×(20-当時の年齢)」
たとえば10歳で相続したら「6万円×(20-10歳)」で60万円控除されます。
④障害者の控除とは?
障害者の方は、以下の通り控除を受けることができます。
- 一般障害者:(85歳になるまでの年齢)×10万円
- 特別障害者:(85歳になるまでの年齢)×20万円
たとえば、一般障害者の方が50歳で相続を受けたら「(85歳-50歳)×10万円」で350万円控除されます。
また、障害者の方に控除があるのも、健常者の方よりも自活が難しいことへの配慮です。
⑤相次相続の控除とは?
相次相続控除とは、短い期間で相続が続いてしまった時の控除です。
たとえば、父が死亡して半年後に母が死亡したら、相続税を短い期間で2回支払うことになります。この場合の負担増を考えて、相次相続控除(10年以内に続けて相続がある状態)があるというわけです。
相次相続控除の正式な計算式は複雑なので、今回は以下に簡易式を紹介します。
仮に、父が亡くなり1年後に母が亡くなったと仮定します。
【計算式】
- 母が亡くなり母が父の財産を相続したときに支払った相続税額
- 「100%-(前回から今回までの経過年数×10%)」
上記の「1×2」で算出された金額が控除額になります。
たとえば、母が父から財産を相続したときに、200万円の相続税を支払っていたとします。
その後、1年後に母が死亡しており、母が父から相続された財産をそのまま相続するとします。
この場合上記1は「200万円」、上記2は「100%-(1×10%)=90%」になるので、「200万円×90%」で180万円控除になります。
ただ、これは簡易式になるので、正確には税理士へ相談しましょう。
⑥外国税の控除とは?
外国税控除とは、外国にある財産を取得した場合の控除です。外国のある財産の場合は、その外国で既に相続税支払っています。そのため、相続税の二重払いを防ぐために外国税控除があるというわけです。
控除額は、以下のどちらか少ない方が適用されます。
- 外国で課税された金額
- 相続税の額 ×(海外にある財産の額÷相続人の相続財産の額)
⑦相続時精算課税制度贈与税額の控除とは?
この章の最後に、相続税精算課税制度を利用した贈与税額の控除について解説します。
この制度を利用することで、贈与税と相続税を組み合わせた節税が可能です。目的としては、生前にたくさん贈与してもらうことで、お金を貯め込まずに世の中にお金を回すことです。
相続税精算課税制度とは?
まず、「相続税精算課税制度」とは、生前に贈与を受けた財産について、最大2,500万円まで非課税にできる制度です。
2,500万円を超える部分については、一律20%の税率になります。
本来、贈与税は非常に高税率(1,000万円超で40%)になるので、それを非課税にできる点は非常に大きなメリットと言えます。
暦年課税は利用できない
相続時精算課税制度を利用すると、その後制度の利用を取り消すことなどは不可能です。
また、「年間110万円までの贈与は基礎控除する」という暦年課税が利用できません。
2,500万円が非課税という点は大きいですが、たとえば30年にわたり毎年110万円ずつ贈与すれば「110万円×30年」で3,300万円分が非課税で贈与できるということです。
相続時に差し戻す
また、贈与時が非課税になるとはいえ、実は相続時に贈与した財産は差し戻します。
つまり、相続時精算課税制度を利用して2,500万円贈与すれば非課税ですが、その2,500万円分の財産は相続時に財産としてカウントするということです。
しかし、上述したように相続税は基礎控除額も贈与税より大きいですし、贈与税ほど高税率ではありません。
そのため、相続時課税制度を利用した方が、節税になるケースがあるのです。
ただ、どちらが節税につながるかは、前項の暦年課税を利用できない点も含め良く計算してから利用しましょう。
4. 不動産による相続税控除の特例について
次に、不動産を相続した場合には、「小規模宅地等の特例」というものがあるので、その点について解説していきます。
4-1. 小規模宅地等の特例とは?
小規模宅地の特例とは、相続した土地が一定の条件に当てはまれば、評価額を80%か50%まで減額してくれる制度です。
たとえば、5,000万円の土地の場合には、80%で評価額4,000万円、50%で評価額2,500万円まで減額するので、その表額に税率を掛ける相続税額が安くなるのです。
詳しい要件は国税庁のホームページで確認するか税理士に相談すべきですが、以下より簡単に適用できる土地がどんな土地かを解説します。
4-2. 要件1
まず、大前提として「被相続人」もしくは「被相続人と同じ財布で生活していた親族」の事業か居住に利用されていた土地が該当します。
そして、その宅地に建物や構造物が存在するという点も条件です。
たとえば、親から土地を相続していたとしても、その土地が空き地であれば、居住用でも事業用でもないので特例は適用できません。
4-3. 要件2
前項の前提のほかに、被相続人が住んでいた宅地は、以下の人が相続する場合のみ特例が適用されます。
- 被相続人の配偶者
- 被相続人と同居していた親族
- 被相続人と同居していない場合の以下のケース
→被相続人の配偶者や同居していた親族がいない
→被相続人が亡くなる3年以内に被相続人、もしくはその配偶者の家屋に居住していない親族
たとえば、被相続人と同居していた人がいるものの、その人が親族でない場合は特例の適用はできません。
また、被相続人の別の場所に住んでいたものの財布が一緒のケースは、配偶者か財布を一緒にしていた親族が相続する必要があります。
上記は「居住用」の宅地であり事業用はまた別の要件があるので、それぞれ確認しておきましょう。
5. 相続税控除や特例は併用して活用は可能?
結論からいうと、上述した「相続税の基礎控除」とこれらの「特例」は併用することはできません。
ただし、すべての控除を利用して減額計算することは可能です。たとえば、夫が遺した3億円の財産を相続するケース(法定相続人は3人)で考えてみましょう。
5-1. 控除内容のおさらい
このケースの控除内容は以下の通りです。
- 基礎控除:3,000万円+600万円×3人=4,800万円
- 配偶者控除:1.6億円
この場合、上記2つを足した2億800万円の控除を受けられるわけではありません。特例はあくまで「税額」の控除であり、評価額の控除でない点を押さえておきましょう。
5-2. まずは基礎控除を差し引く
まずは、3億円の財産から基礎控除の4,800万円を差し引き、2億5,200万円が相続税評価額になります。
この2憶5,200万円の相続財産の相続税を計算すると「2億5,200万円×45%-2,700万円」になるので、8,640万円が支払うべき相続税になるのです。
5-3. 配偶者控除を適用する
ここで配偶者控除という特例を適用させます。つまり、支払うべき8,640万円の相続税から配偶者控除の1.6憶円を控除するので、結局税額はゼロになるということです。
ややこしいのですが、基礎控除と特例は「併用」はできないのですが、どちらも「利用」することはできるということです。
5-4. 相続税の控除や特例を受けた人の注意点
最後に、相続税の控除や特例を受けた人は、以下の控除や特例は申告が必要になります
- 配偶者控除
- 小規模宅地などの特例
上記のケースに該当しているからといって納税していなかったり、本来の金額より安い金額を納税したりすると、追加徴税になるので気を付けましょう。
いずれにしろ、独学で控除について知りつつ、最終的には税理士に相談すると良いでしょう。
6. 相続税の控除は申請しないとされない!控除の対象になったら忘れず申請を
このように、相続税には基礎控除がありつつも、色々な特例が存在します。
たとえば、相続時精算課税制度などは、生前に行う必要がある制度なので、生前のうちから利用するかどうかを決める必要があるのです。
そのようなことは、さまざまな特例を理解していないと判断できないので、まずは仕組みをしっかりと理解することが大切です。
相続は遠い未来のことと思わずに、今のうちから色々な仕組みを知っておき、将来に備えておきましょう。
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