ホームインスペクションを直訳すると、「家(ホーム)の調査(インスペクション)」です。
つまり、ホームインスペクションとは住宅を調査するという意味であり、今不動産業界で注目されています。というのも、宅建業法が改正され「中古住宅の売買時に、仲介業者はホームインスペクション業者を紹介できるか否かを告知する」という義務が加わったからです。
まだホームインスペクションを行うという義務はありませんが、この告知をすることで、売主・買主共にホームインスペクションの存在を知ることになります。
そうなると、特に買主側はホームインスペクションを要望することが多くなると予想され、今後は増々ホームインスペクションは浸透していくでしょう。
そのため、特に家を売却する側はホームインスペクションについて理解しておく必要があります。
ホームインスペクションとは実際に何をするのか?どのようなメリット・デメリットがあるのか?をきちんと把握し、住宅の売却時にホームインスペクションすべきかどうかを判断しましょう。
今回は、そんなホームインスペクションについて詳しく解説していきます。
目次
1. ホームインスペクションとは?
ホームインスペクションは、住宅に精通したホームインスペクター(住宅診断士)が、客観的な立場で住宅を調査します。
まず、ホームインスペクションを活用するタイミング、「建物状況調査」との違いなどを理解しておきましょう。
ホームインスペクションはどんな時に活用するのか?
ホームインスペクションは、住宅を購入する前や、自分の家を売却する前に行うことがほとんどです。
住宅を購入する前にホームインスペクションを行えば、その建物に不備や欠陥がないかを確認することができ、安全な取引につながります。
また、自分の家を売却する前にホームインスペクションを行えば、購入者に安心感があり家の売却がしやすくなるのです。
ホームインスペクションは公平な住宅診断をする
ホームインスペクションは、ホームインスペクターが公平な立場で行うことが前提です。
仮に、売主が指定したホームインスペクターが担当していたとしても、そのホームインスペクターは売主が有利になるような診断はせずに、公平に客観的視点から建物を診断します。だからこそ、購入者も安心して住宅が購入できるというわけです。
また、ホームインスペクションでは、診断した後にリフォーム業者を勧めたり、診断結果をもとにホームインスペクターが検討者に営業をかけたりしません。
あくまで、「住宅を診断する立場」を守るのがホームインスペクションです。ただ、ホームインスペクションの結果から、リフォーム箇所や内容のアドバイスをすることはあります。
建物の状況調査とホームインスペクションとはどう違うのか?
ホームインスペクションと似ている調査に「建物状況調査」というものがあります。似てはいますが、この2つは以下の点に違いがあります。
建物状況調査 | ホームインスペクション | |
調査項目数 | 40~50箇所 | 100以上の箇所 |
屋根裏や床下などはチェックするか? | 点検口から覗ける範囲に限定 | 床下屋根裏、基礎・構造・漏水・蟻害などに加え、断熱材や湿気など目視できる範囲 |
報告書の内容 | A4の報告書飲み | コメント付きの詳細な報告書(写真あり) |
リフォームについて | リフォームに関しては特になし | リフォームのアドバイスあり |
調査終了後のフォローについて | 調査のみでフォローはない | 調査内容の説明などのフォローあり |
瑕疵保険への加入可否 | 別途費用がかかる | 無料で瑕疵担保保険に加入できる場合もある |
フラット35や耐震基準適合証明書の発行 | 別途費用がかかる | 同時検査が可能 |
調査する人 | 講習のみ受講した人もいる | 調査現場の経験を積んだ担当者 |
上記の内容は、ホームインスペクション事務所によって異なりますが、総じて言えるのがホームインスペクションの方が建物状況調査よりも、より詳しく調査をするという点です。
2. ホームインスペクションをするメリット5つ
次に、ホームインスペクションをするメリットを解説します。以下5点のメリットは、ホームインスペクションすることによる買主のメリットがメインです。
ただ、それは売主からすると「買主に自分の住宅を評価されやすい」というメリットでもあるのです。
①欠陥住宅を購入するトラブルを回避する事ができる
住宅は経年劣化していくものであり、設備は故障のリスクを抱えます。また、売主自身も把握していなかった欠陥が存在することもあり、場合によっては瑕疵担保責任に該当しないケースがあります。
その場合は、住宅を購入した人が責任をもって補修するなどの対応をしなければいけません。そうなると、購入後に予期せぬ出費をしたり、対応する時間を取られたりというリスクにつながることがあります。
住宅に関しては、「床に大きな穴が開いている」「クロスが破れている」など、明らかな損傷は素人目に見ても分かります。
ただ、床下や天井裏など、プロにしか調べることができない場所もあり、ホームインスペクションならそのような個所もチェックしてくれるので、欠陥住宅購入のリスクを軽減させることができます。それは売主の立場からも、売却後のトラブルに対してのリスクヘッジと言えます。
②リフォームが必要な時期や場所を知る事で多額の改修費用のトラブルを回避する
上述の通り、ホームインスペクションはリフォームに関してのアドバイスをしてくれます。
リフォームといっても、補修箇所や補修内容によって、リフォーム金額は大きく変わり、それは素人では判断できません。
そのため、リフォーム前提で住宅を買った結果、予想以上のリフォーム金額になるケースは少なくありません。その点、リフォームに関してのアドバイスをもらえるホームインスペクションならリスクヘッジできるというわけです。
③購入前に調べておく事で床下等のシロアリによるトラブルを回避する
一戸建ての場合には木造住宅が多いので、シロアイ被害がリスクとして挙げられます。特に、シロアリ被害の初期段階では、たとえ床下を確認できたとしてもプロでないと気づけないこともあります。シロアリ被害は土台や基礎部分が損傷するので、リフォームでは修復できないこともあるため、そのリスクヘッジをできる点はメリットと言えるでしょう。
④ホームインスペクションをすると住宅の安全性を調べる事ができる
ホームインスペクションをすることは、ホームインスペクターからの「お墨付き」をもらえるということです。
もちろん、入居してから確実に快適に暮らせることを保証するわけではありませんが、少なくともプロの目から見ての安全性は確保できているというお墨付きをもらえます。たとえば、自分の住宅を売却するときに「ホームインスペクション済み」と表記すれば、購入者も安心して購入してくれるでしょう。
⑤ホームインスペクションの報告書やメンテナンス履歴を残す事で売値に影響する場合もある
ホームインスペクションをしている物件は、単純に買主の安心感が増します。
特に、冒頭でいったようにホームインスペクションに関しては、中古住宅の売買時に売主・買主ともに必ず知ることになるので、その存在を知っている買主は多くなるでしょう。そのような状況なので、ホームインスペクションを行っておくことのアドバンテージはどんどん高くなると予想されます。
3. ホームインスペクションはいつ依頼するのか?
ホームインスペクションはお金がかかるものなので、効果を最大限発揮できるタイミングで実施したいものです。実施タイミングは買主・売主でそれぞれ異なるので注意しましょう。
ホームインスペクションの依頼のタイミングについて
ホームインスペクションを依頼するタイミングは以下がベストなタイミングです。
・買主:申し込み後、契約前
・売主:売り出し前
買主は、契約をした後にホームインスペクションをしてしまうと、納得いかない内容であっても契約がキャンセルできない可能性があります。
欠陥の度合いにもよりますが、「生活に支障がないレベル」であれば、強制的に契約解除はできません。そのため、キャンセルリスクがない申込後から契約前に実施しておくべきなのです。
売主は、住宅の売り出し前にホームインスペクションするのがベストです。というのも、上述したように広告にホームインスペクション済みと打ち出すことで効果があるからです。広告に打ち出すためには売り出し前に行う必要があり、特に売却初期段階の集客が多い時期に実施するのが良いでしょう。
ホームインスペクションは頻繁にした方が良いのか?
ホームインスペクションを何度もする必要はありません。
あくまで、「購入時の安心材料」としてホームインスペクションがあるので、住宅購入後に頻繁にやるのは無駄です。一回目のホームインスペクション時にメンテンナンス計画を立てておき、建物が極力劣化しないようにしておきましょう。もちろん、売却する側は売却するときの1回で十分です。
4. ホームインスペクションをするのに必要なものは?
次に、ホームインスペクションをするのに必要もの、用意しておくものを解説します。スムーズにホームインスペクションするために理解しておきましょう。
住宅の概要が分かるものがあれば診断の作業がスムーズにいく
ホームインスペクションする前に用意しておく資料は以下の通りです。
- 住宅の間取り図
- 設備が記載されている資料
- 地盤調査報告書など
- 購入時のパンフットなど
上記のように、その住宅のことが分かる資料を用意しておきましょう。
マンションなら管理規約集も用意しておくと良いです。基本的には、ホームインスペクション業者に用意しておく資料は指摘されるので、その指摘通りに用意しておけば問題ありません。
資料がすべてそろっていなくてもホームインスペクションはできる
ただし、資料がなかったとしてもホームインスペクションができないわけではありません。
ただ、資料が多いほどホームインスペクションが実施しやすいので、調査の精度が上がるのは事実です。いずれにしろ住宅の売却時は前項のような資料は用意しておく必要はあるので、探しておくと良いでしょう。
5. ホームインスペクションをするのにどれくらいの時間がかかるのか?
ホームインスペクションにかかる時間は住宅の規模にもよりますが、平均的な30坪ほどの住宅で3時間ほどかかります。
また、ホームインスペクションはどのような調査をするかという点や、不備があったときの説明を聞く必要があるので、代理ではなく本人の立ち合いがベストです。
そのため、3時間程度確保できる状態でホームインスペクションを依頼し、かつ住宅規模が大きい場合は事前に所要時間を確認しておきましょう。
6. ホームインスペクションの問合せから支払いまでの流れについて
一般的に、ホームインスペクションを実施する流れは以下の通りです。
- ホームインスペクション業者へ電話やメールで連絡する
- 見積もりを行い金額の把握
- 申し込みをして住宅診断日を確定させる
- 必要書類の提出(業者による)
- ホームインスペクションの実施
- 報告書の提出
- 料金の支払い
上記のように、特に複雑な流れはありません。ただ、業者によってフェーズごとの期間は異なるので、特に「報告書の提出」がホームインスペクションの実施からどのくらいの期間かかるかは確認しておくと良いでしょう。
7. ホームインスペクションはどのようにするのか?
次に、ホームインスペクションを実施する、以下の方法について詳しく解説します。
・目視による確認
・機械を活用して確認
目視により診断する方法
ホームインスペクションの基本は、ホームインスペクターの目視による調査です。
後述しますが、住宅の室内だけでなく外回りや床下・屋根裏などを目視で調査します。また、ホームインスペクションのサービス内容によって、床下や屋根裏まで調査するかどうかは異なるので、きちんと調査箇所を確認しておきましょう。
機械を活用して診断する方法
サービス内容によっては、目視の調査だけでなく、以下のように機械を活用した調査も行います。
- サーモグラフィ(雨漏りや漏水の調査)
- 鉄筋検査器(鉄筋の強度などを測定)
- 水分計(木材の水分含有量の測定
- シロアリ探知機
上記はオプションメニューであることが多く、追加料金がかかる場合がほとんどです。そのため、調査の必要性をよく考えた上で、実施するかどうかを判断しましょう。
ホームインスペクションで確認できる内容とは?
上述したようにサービス内によって確認できる内容は異なりますが、ホームインスペクションは室内の室外も調査します。
ただし、基本的な調査方法は目視なので、たとえば床下に点検口がない場合には床下の調査は厳しいです。フローリングを外して調査することもできないことはありませんが、基本は住宅を傷つけるようなことは行いません。また、家具を移動することで傷付くリスクがあれば、家具周りも調査しません。
8. ホームインスペクションの相場は?
ホームインスペクションの価格は業者によって異なりますが、相場価格は以下の通りです。
- 目視のみの診断:5万円前後
- 床下などの診断:10万円以上
- 精密機器を使う場合:上記にプラスして数万円程度
ホームインスペクションは、上記のようにお金はかかります。
ただ、極端な話10万円の調査をしても、10万円高く住宅が売れれば良いわけです。それは、「ホームインスペクション実施済み」という表記をするだけで、10万円以上の価値がつくケースが多いため、このくらいの費用は必要経費とも言えるでしょう。
9. ホームインスペクションをする為の業者の選び方
診断する内容により業者を選ぶ
ホームインスペクションを行う業者はたくさんありますが、業者ごとに特徴があります。
たとえば、住宅の設計や管理関係をメインにしている業者であれば、配管の劣化など構造的な点に詳しいです。
また、リフォームをメインにしている会社であれば、リフォームのアドバイスに強みがあります。そのため、ホームインスペクションしたい内容に応じて、業者の得手不得手を確認して、どの業者に依頼するか判断しましょう。
経験や実績を確認して信頼できる業者を選ぶ
信頼できるホームインスペクション業者を選ぶためには、その業者の経験や実績は非常に重要です。
たとえば、調査する住宅と同じような規模のホームインスペクションをした実績があれば、注意点などを踏まえた調査をしてくれます。ホームインスペクション業者のホームページなどに過去の実績が載っていることが多いので、必ずチェックしておきましょう。
悪質な業者に注意する必要がある
悪質な業者とは、たとえば実績がないのに、根拠もなく「どのような物件も対応」と謳っているような業者です。
そのような業者には必ず過去の実績をヒアリングするようにしましょう。また、上述した相場価格よりも明らかに高い、もしくは安い業者も注意です。
金額がおかしいと感じれば、その理由をきちんと聞きましょう。理由に納得できない限りその業者を利用するのは避けた方が良いです。
10. 売却時のアピールのためにホームインスペクションを活用しよう!
宅建業法の改正から、ホームインスペクションは今後どんどん普及していくでしょう。
数年後には、ホームインスペクションは「当たり前」になっているかもしれませんし、事実アメリカではホームインスペクションは当たり前です。だからこそ、売主の立場で上述したホームインスペクションについて理解しておく必要があります。
ホームインスペクションの記録を残しておくことで、住宅の資産価値の高さや管理の状態の良さを売却時にアピールできるので、結果的に住宅を高く・早く売ることにつながるのです。
他にも不動産を売却したいときに失敗しないためのマニュアルを以下の記事に記しましたので、参考にしてみてください。