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TPPが不動産業界に与える影響は?|発効で不動産投資はどう変わる?

2023年6月末、国会で「TPP11」の関連法が可決・成立しました。

これによりTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の日本国内手続きが完了し、他の協定国の国内手続きが順調に進めば、早くて2024年以内にもTPPが発効される可能性が高まります。

TPP発効により期待できる恩恵が大きく分けて2つあります。

  • 農作物や様々な製品の関税が引き下げられ、安く食物や製品を購入することができる。
  • サービスや投資ルールが加盟国間で統一され、海外でのビジネス展開の環境が整う

国際間での自由化が進むTPP、不動産業界ではどのような影響を受けるでしょうか?

この記事では、TPPが不動産業界・不動産投資に与える影響を考えていきたいと思います。

1. 【2023年6月】TPPの現状

2023年6月末時点での、日本の現状とアメリカの復帰の可能性について見ていきます。

【日本】「TPP11」関連法が成立。国内手続き完了

2023年6月29日、参院本会議で「TPP11」関連法が可決・成立したことにより、TPP発効に向けての国内手続きは事実上完了しました。

TPP発効には、6カ国が国内手続きを完了して60日後が条件となっています。

2023年6月末時点で、国内手続きが完了しているのはメキシコと日本だけ。日本は年内発効を目標に、他の加盟国に手続きを促しています。

【アメリカ】TPPには復帰しない?

TPPのような多国間交渉よりも、あくまで2国間交渉で臨みたいアメリカ。

トランプ大統領は、選挙公約通りに就任早々TPPからの脱退を決め、2024年4月の日米首脳共同記者会見でも改めてTPP離脱を表明しています。

しかし、その裏で通商代表部にTPP復帰に向けての再交渉の検討を指示しており、揺れ動く態度も見せています。トランプ大統領も、まさかアメリカ抜きで日本がここまでTPP11をまとめ上げるとは思っていなかったのでしょう。

このままアメリカ抜きでのTPP11が発効となれば、アメリカの食品や農産物にかかる関税は相対的に高くなり、今まで日本に安定的に食料を輸出してきたアメリカにとっては大きなリスクとなります。

また、TPP11は世界GDPの13%をカバーし、ASEANの4倍の経済規模になると言われ、アメリカにとっても各国々と2国間交渉を進めるよりも、はるかに経済合理性があります。

安倍首相は従来通り「米国抜きのTPPは意味がない」という姿勢を崩さず、TPP11はアメリカの再復帰を前提で進めています。

アメリカにとっても十分旨味のあるTPP、復帰に修正する可能性は十分に考えられます。

2. TPPが不動産業界に与える影響は?

TPPが発効されれば、日本の不動産業界にどのような影響を与えるのでしょうか?

【2013年】全国宅地建物取引業協会連合会の意見書

2013年に開催された「TPP協定交渉に関する関係団体等への説明会」で、全国宅地建物取引業協会連合会は以下の2点の意見を提出しました。

  1. 協定国同士の資格・免許の相互承認となることで、アメリカの不動産制度がスタンダードになり日本の不動産取引制度が壊されてしまう懸念。
  2. 国家と投資家の間の紛争処理解決(ISDS)手続きにより、日本の不動産取引の慣行や法制度が不当であると指摘され、仲介手数料の自由化や賃料や売買価格の全面公開を要求されることへの懸念

全国宅建協会連合会では、TPPによって外国のルールや情報が流れ込み、日本の従来通りの不動産取引制度が崩壊することを強く懸念しています。

【2015年】国土交通省による「TPPの大筋合意」

国土交通省は2015年12月に「TPPの大筋合意」と題した資料を公表しました。

TPPによって建設業・不動産業では、どのようなビジネスチャンスがあるのか、国土交通省による見解をまとめたものです。

「TPPの大筋合意」の主な内容

  1. 関税・貿易の円滑化
    建築資材や木材を低価格で調達できる
    貿易流通量増大による倉庫の需要増
  2. 国境を超えるサービスの貿易
    海外進出の規制緩和がされることで、建設業の海外進出が活発化
    ベトナム不動産の賃貸・転貸の自由化により不動産の収益化
  3. ビジネス関係者の一時的な入国ルールを明確化
    外国企業誘致によるオフィスの需要増
    人の移動・集中による不動産需要の押し上げ
  4. 政府調達機関のサービス・物品手続きのルール化
    新興国におけるインフラ需要拡大により、日本の建設業の海外受注の機会増大
  5. 投資・財産の保護・保障に関するルールを明確化
    不当な措置で損害を被った場合の紛争処理の簡易・円滑化

参照:環太平洋パートナーシップ(TPP)の大筋合意 / 国土交通省

「国境を超えるサービスの貿易」における留保

国土交通省は「TPPの大筋合意」の中で、「日本の不動産取引制度がTPPによって変更することはない」との見解を出しています。

不動産・建設に関係する法律は適用外

TPPでは、すべての国境を超えるサービスの自由貿易化を原則としていますが、例外として建設業・不動産業に関しては留保としています。

TPPが発効されても、建設業・不動産業については現在国内で定められている法律・規制を従来通り適用していく形となります。

措置の概要|不動産取引の自由化なし

具体的に言うと、宅地建物取引業法・不動産特定共同事業法・マンション管理適正化法により、日本国内の不動産取引市場に、TPP協定国が自由に介入することから守られた形となりました。

措置の概要(不動産業の営業条件)

  • 宅地建物取引業法
    日本国内での事務所の設置
    国土交通大臣、もしくは事務所のある都道府県知事による免許
  • 不動産特定共同事業法
    日本国内での事務所の設置
    国土交通大臣、もしくは事務所のある都道府県知事による免許
    国土交通省への届け出
  • マンション管理適正化法
    日本国内での事務所の設置
    国土交通省にある登録簿への登録

3. 不動産投資にはどんな影響があるのか

続いて、TPPによって不動産投資にどのような影響があるかを見ていきます。

土地取引は規制強化の可能性あり

TPPが発効されても日本の不動産取引制度は現行維持なので、不動産投資の際に海外の制度が適用されることはありませんが、土地取引は将来規制が強化される可能性があります。

TPPでは、土地取引だけは将来(=包括)留保という形にしています。これは、将来的に土地取引の規制を新たに導入、もしくは強化するということです。

現在の日本の土地情報を管理する不動産登記簿・森林調査簿・農地基本台帳は、一元的に管理されておらず精度や内容もバラバラです。

もし海外資本が日本の土地を買収した場合、土地の所有実態が追いきれなくなったり、海外資本がいつのまにか日本の森林や水源地域を買収することも十分に考えられます。現に、地主不在の森林が中国資本に買収され問題化されたこともありました。

日本の森・水・土地を守る観点から、土地取引は将来的に規制強化となり、不動産投資にも何らかの影響が出る可能性が高いと思われます。

海外はベトナムの不動産が狙い目

つづいて、TPPによる海外不動産投資の影響について考えてみます。

国土交通省が公開した「TPPの大筋合意」の中で、注目すべき項目の一つにベトナム不動産の自由化があります。

2015年に外国人にも不動産の所有権が解禁されたベトナムですが、慢性の貿易赤字でTPP参加国の中で一人当たりのGDPが最も低いのが現状です。

しかし、2016年の世界銀行の発表によると、ベトナムはTPPによる関税撤廃で輸出先が拡大し、2030年までに経済成長率は10%に達して「TPPによる最大の恩恵を受ける国」の1つと予測されています。

大幅な経済成長ができるとして、ベトナム不動産は外国人投資家からも注目されています。

また外国人だけでなく、ベトナム人が住宅を購入するための住宅ローンの整備もされつつあるので、これまでキャッシュで購入できなかった層の住宅取得も進みます。

物件がたとえ外国人に売れなくてもベトナム人に売ることができるので、出口戦略の見通しが立てやすくなります。

今後高い経済成長率が望めること、出口戦略が立てやすいこと、この二つによりベトナムは不動産投資の狙い目エリアといえるでしょう。

4. TPPの発効は年内確定か?不動産業界も変化の可能性あり

日本政府はTPP年内発効を目標に各国に手続きを促しているので、2024年以内に発効する可能性はかなり高いと思います。

TPPが発効されても、法的には不動産業界の制度は変更なしとされていますが、海外からの新規参入が活発になれば、顧客の囲い込みやおとり広告といった不動産業界特有の慣行の見直しを迫られることは十分に考えられます。

TPPは、どの業界もふたを開けてみなければまだまだ未知数ではありますが、市場の自由化は守られたとされる不動産業界でも、変化の可能性は大いにあるといえるでしょう。

 

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