賃貸物件は供給過多により、全国的に空室率が高くなっています。
特に築古物件の空室問題は深刻で、オーナーにとっては悩みの種に。
リフォームやリノベに多額の費用がかかり、最悪の場合は家賃の引き下げも必要になってきます。
そんな中、石川県金沢市の不動産会社クラスコが、家具付き賃貸を始めたと話題に。
築古物件に北欧風家具を設置し、家賃を1割~2割上乗せするという新たな取り組みを始めました。
今後は自社物件だけでなく、全国的に事業展開をすすめ、他社物件にもサービスを提供するといいますが、家具付き賃貸は果たして空室問題の解決となるのでしょうか?
家具付き物件でグレードを高く見せる
賃貸物件の家具家電付き物件はワンルームマンションに多く、単身赴任者や学生から人気を集めています。ところが今回の取り組みは、ワンルームだけでなく3DKなどのファミリータイプも対象に。
特に1970年代に建てられた築古物件の和室に、北欧風家具を設置しレトロ感ある部屋に生まれ変えるといいます。
この取り組みは「NEW70(ニューナナマル)」といい、デザイナーが1件ずつ物件を見て回り、それぞれの部屋に合ったテーブル・椅子・ソファなどを仕入れて設置。
プロのアドバイスで、お部屋のグレードがぐっと高く見えるのです。
ターゲット層は主に20代から30代といった若者で、若者向けのインテリアに。今のところ5件で開始し、その内3件はすでに入居が決まっているといいます。
物件の競争力が高まるかは、家賃設定がポイント
家具付き物件は賃借人にとっては魅力的です。特に学生など初めての一人暮らしでは、家具・家電・日用品などを一式揃えるとなると、たとえ流行りの低価格ショップで買っても結構な出費に。
家具付き物件であれば初期費用が抑えられるため、競争力が高い物件になります。
しかし今回クラスコの「NEW70(ニューナナマル)」では、家賃が1割~2割アップ。たとえば7万円の家賃相場であれば、8万円前後で提供するということに。家具付き物件の競争力が高くなるのは、競合と比べて家賃が同程度の場合。
今回のように家賃が上がり、それでも競争力が高いのかどうかについては疑問が残ります。
また家具付き物件を好むのは、学生や単身赴任者。
家具を一式持っている人であれば、あえて家具付き物件は選びません。日本は海外と違って家具付き物件が主流でないため、ほとんどの人が自分の家具を持って引っ越しします。
今回のように若者をターゲットにしているといっても、家具付き物件に対する需要は地域によっては高くない可能性があります。
いずれにせよ、賃料の上昇によって競争力が低下することは避けられません。重要なことは、どの程度の家賃であれば、賃借人にとっての許容範囲であるかを探らなければなりません。また市場の動向も踏まえてしっかり分析する必要がありそうです。失敗すればオーナーにとっての損失になることは、念頭に置いた方がいいかもしれません。
家具の修繕費用は避けられない
今回の家具付き物件は40万円~50万円の費用に対して、家賃を1割~2割アップし、5年で採算が取れると計算しています。
しかしこれには家具の修繕費用は含まれていません。
家具の寿命は製品の材質や使い方で大きく変わってきますが、だいたい木製家具の平均的な寿命は5年~10年です。当然使い方が悪ければ、もっと早く壊れてしまいます。
賃借人の使用中に家具が壊れた場合、修繕費用はどちらが持つのかという問題が発生します。普通に日常生活を送る上で壊れたとなると、修繕費用はオーナー負担になります。
そこでかかった修繕費用や対応の時間を考慮すると、家具付き物件を提供することが、オーナーに少なからずの負担があることは否定できません。
まとめ
アメリカなど欧米では家具付き物件が当たり前ですが、日本ではまだあまり普及していません。とは言え家具付きのお部屋を提供する民泊も増えている中で、賃貸物件も家具や家電付き物件が増えていく可能性は十分ありそうです。
今後日本の住宅事情は、人口減少などの社会問題もあり、空室問題がさらに深刻化します。賃貸物件に何らかの付加価値を付けないと競争力のある物件にはならないでしょう。
今回ご紹介したクラスコのように、家具付き物件が空室問題に有効な手段であることは間違いありません。しかし家具を付けて家賃を上げることによる客離れや、修繕費用負担など様々な問題も潜んでいることは理解しておきましょう。
もし家具付き物件を提供するなら、該当物件の周辺調査や入居希望者の特徴を分析し、家賃を上げても需要が見込める地域であるか調査することが大切。
そしてオーナーにとってのリスクやデメリットが許容できるかどうかがポイントになるでしょう。
参考記事:「クラスコ、家具付き賃貸に参入 70年代物件、若者開拓 家賃1~2割高く」 2021/3/1 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27519200Y8A220C1LB0000/
空き家の活用法は、家具付き賃貸にする以外にも様々なものがあります。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
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