不動産投資で銀行から融資を申しこむ際、希望する金額が認められないことがあります。
これはローン申込人に問題がある場合と、物件に問題がある場合があります。
物件の問題とは、不動産で取引されようとする価格より、銀行側が評価する物件の価格が低い場合です。
一般的に、不動産で流通している物件の価格は売り主が決めています。
もちろん法外な価格を付けても買い手がつかないので、同じような条件で、過去に近隣地域で取引された売買実績から設定されることが多いです。
ところが、銀行側が物件を評価するときは細かく計算します。
マンションや戸建てなど建物付きの場合は、土地と建物を国のガイドラインに沿って別々に計算します。そうして適正価格を計算し、融資金額決定の参考にしています。この価格を積算価格といいます。
今回は銀行マンが計算する積算価格の計算方法をご紹介いたしますので、ぜひ今後の不動産投資のご参考にしてみて下さい。
目次
1. 積算価格の重要性とは
積算価格というのは、土地と建物が別々に定められた計算方法によって算出される物件価格のことで、主に銀行などの金融機関で使われます。
銀行は不動産取引における価格とは別に、融資しようとする物件に対する現在の評価額を調べます。
銀行は貸し倒れというリスクに備えています。万が一、融資が回収不能となった際には、担保物件の売却にあたります。そうした際できるだけ損失を出さないために、積算価格を重要視しています。
このように、銀行マンによる物件の見方は投資家目線とは少し異なるので、この積算価格を知ることは融資を受ける投資家にとって重要です。
1-1. 積算価格は積算評価法による銀行の資産価値の算出に使われる
積算価格とは、土地と建物をそれぞれ現在の価値に合わせて計算されます。
【積算価格=土地の価格+建物の価格】
①土地の場合は、路線価とよばれるものを使って、それに土地面積を乗じて計算されます。
【土地の価格=路線価×土地面積(㎡)】
②建物の場合は再び新築した場合の価格に、建物の経過年数が加味されます。建物の積算価格は以下のようになります。
【建物の価格=再調達価格×延床面積(㎡)×残存年数/法定耐用年数】
1-2. 積算価格と収益価格どちらが重要か
積算価格は、建物の価値に注目されます。
もし建物を新築した場合にどれくらいの費用がかかるのかを出し、それに残化率(残存年数÷法定耐用年数)を乗じて計算します。つまり実需に着目した評価ということになります。それに土地の価格を合わせたものが積算価格です。
一方、収益価格とは今後将来不動産投資で得られるであろう見込み利益と、現在の価値を合わせて評価された価格になります。
積算価格と収益価格は着眼点が違うため、どちらが重要ということではありません。
しかし銀行で融資を受ける場合には、両方の価格を知っておいた方がいいでしょう。
2. まずは土地の積算価格について計算してみる
土地の価格には「路線価」という国の定める価格が使われます。
路線価には2種類あります。
- 「相続税評価額路線価」
- 「固定資産税評路線価」
これらは路線価は、国土交通省が公表している「公示価格」を基準に計算されています。
この2種類の路線価のうち、銀行での積算価格には「固定資産税路線価」が利用されることが多いと言われています。
路線価を用いて計算する場合は、1㎡あたりの路線価にその土地の面積(㎡)を乗じて計算されます。計算方法は以下の通りです。
【土地の価格=路線価×面積(㎡)】
2-1. 土地の価値(路線価)を調べる方法
土地価格を決める基準は4つあります。
①「公示価格」(国土交通省)
公示価格は、地価公示法に基づいて国土交通省が毎年1月1日時点での土地価格を公表しています。路線価を決める基準となる価格です。
②「相続税評価額路線価」(国税庁)
主に、相続税を計算するときに利用される土地の評価額です。毎年7月1日に公表されています。これは公示価格の80%程度に設定されています。
③「固定資産税路線価」(市町村)
主に、固定資産税を計算するのに利用される土地の評価額です。
銀行での積算価格計算にはこれがよく利用されています。固定資産税路線価は、公示価格の70%程度を目安に設定されています。
④「基準地価」(都道府県)
不動産鑑定士の評価から土地の地価を評価するもので、都道府県が公表しています。これは公示価格の70%~80%程度を目安に設定されています。
こうした路線価情報は「全国地価マップ」でまとめて閲覧できるので、とても便利です。
2-2. 積算価格には価格調整が入る
路線価は、道路に面する宅地の1㎡辺りの評価額のことです。
道路一本ずつに評価額が記載されており、その道路に面する土地の評価額を示しています。
積算価格は路線価をそのまま計算に入れるのではなく、用途地域や土地の形状を鑑みて価格を修正します。
価格調整(用途地域)
積算価格は土地の用途地域によって掛目が決まっており、これによって価格が調整されます。
用途地域 | 掛目 |
商業地域 | +10% |
第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地 | ±0 |
第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域 | -10% |
第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地 | -20% |
準工業地域、工業地域 | -30% |
工業専用地域 | 住居建設不可 |
価格調整(土地の形状)
土地の形状や立地といった特性はさまざまで、また道路に面する程度も異なります。よってこうしたそれぞれの土地事情に応じて評価額が修正されます。
①角地の場合
角地の土地は2つの道路が交差する場所にあるため、一般的に利用価値が高いです。
よって2つの道路の評価の高い方の路線価を選択し、1割増で計算されます。
【積算価格=路線価(高い方)×1.1×土地の面積(㎡)】
②二つの道路に面している場合
両側の二方が道路に面している土地の場合は、どちらか路線価の高いほうで計算されます。
【積算価格=路線価(高い方)×土地の面積(㎡)】
③旗竿地の場合
旗竿地とは、土地が旗のような形をしている土地のことです。
通路部分が狭く、敷地の奥の方で広くなる土地形状なので、利用価値が高くありません。よって、3割程度安く計算されます。
【積算価格=路線価×0.7×土地の面積(㎡)】
3. 続いて建物に対しての積算価格を計算する
建物の積算価格を計算するには、次の3つがポイントになります。
- 再調達価格
- 残存年数
- 法定耐用年数
再調達価格とは、建物を再度新しく建築した際にかかる費用のことです。火災保険の保険金額にもこの再調達価格が使われています。
そして建物構造によって法定耐用年数が決まっています。ここから経過年数を引いて残存年数を計算します。以下の計算式で建物の現在価格が計算できます。
【建物の価格=再調達価格×延床面積(㎡)×残存年数/法定耐用年数】
再調達価格と残存年数/法定耐用年数
再調達価格は、建物構造によって単価が異なります。また、金融機関によって多少異なりますが、平均的なものは以下のようになっています。
構造 | ㎡単価 |
鉄筋コンクリート(RC) | 20万/㎡ |
重量鉄骨 | 18万/㎡ |
木造 | 15万/㎡ |
軽量鉄骨 | 15万/㎡ |
また建物による法定耐用年数は以下のようになっています。
構造 | 耐用年数 |
鉄筋コンクリート(RC) | 47年 |
重量鉄骨 | 34年 |
木造 | 22年 |
4. 実際に銀行員になったつもりで積算価格を出してみる
それでは実際に、マンションの積算価格を下記条件にて計算してみます。
【前提条件】
- 所在地:大阪市城東区中央
- 物件面積:65㎡(バルコニーは含まれません)
- 築年数:12年
- 土地路線価: 17万円
- 建物の敷地面積:2,000㎡
- 区分マンションの土地持ち分:40万分の5,000
(1)土地の積算価格
17万円×2,000㎡×5,000÷400,000=4,250,000円
(2)建物の積算価格
20万円×(47-12)÷47×65㎡=9,680,851円
(3)土地と建物の合計積算価格
4,250,000円+9,680,851円=13,930,851円
計算結果からこの物件は投資に向いている?向いていない?
積算価格より売り価格が低ければ、資産性が高く投資に向いていると言えます。
上記条件で計算された積算価格は1,393万円でしたが、実際の売り出し価格は約3,000万円です。よってこの場合、投資には不向きということになります。
積算価格と同程度、又はそれより低い価格の物件が理想ではありますが、そうした物件が流通しているのは非常に少ないのが現状です。
5. 積算価格はあくまで参考に!
項目4で積算価格を計算してみたことで分かったのは、銀行マンが計算する積算価格は、実際取引されている価格と乖離していることが多いことです。基本的に積算価格は低めに計算されることが多いので、流通している価格より低くなるのが普通です。
本来、積算価格とは銀行側がリスク回避のために計算している担保価格なので、そうなるのは当然です。
実際に、希望融資金額と積算価格が大きく離れてしますと、融資額の減額、または融資自体が難しい場合があります。
しかし、積算価格が不足しているという理由で諦める必要はありません。
確かに銀行が融資を判断する際、積算価格は非常に重要ではありますが、同時に銀行は収益価格にも目を向けています。総合的に融資金額、融資の可否を検討しているので、積算価格はあくまで参考にして下さい。
積算価格より低い価格の物件というのは、ほとんどないのが現状ですから、それだけで不動産投資を諦めないようにしましょう。
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