減価償却について漠然とした理解でマンション投資経営を行っている方はいないでしょうか。
決算は税理士に任せているから大丈夫と高を括っている方も要注意です。マンション投資は減価償却に大きく左右されるため、その効果を見極めることが成功の大きな要因といえます。
今回は、マンション投資における減価償却の仕組みや計算方法について解説したいと思います。
目次
そもそも「減価償却」って何?
時の経過や使用することによってモノは老朽化、損傷します。減価償却とは、取得するのに要した金額をそのモノの劣化に応じて費用として配分することをいいます。これにより初めて、一定期間(通常は一年間)の損益を正確に把握することができます。
つまり、事業から本当に利益が出ているのか、どの程度利益が出ているかを理解しなければ、取引銀行に事業の状況を説明することができず、また確定申告により納める税金を計算することもできないのです。
減価償却の仕組み
モノの劣化を表すのが減価償却ですが、その減価償却は耐用年数によって数値化されます。そして、その耐用年数はモノの種類や材質、構造、用途によって決まるのが一般的です。但しモノの中でも、土地は老朽化や損傷することがないため減価償却の対象外となります。また、10万円未満のモノや、そもそも1年しか使用できないモノも対象外となります。
仮に、4億円でマンション(土地2億円、建物2億円)を購入し、それを賃貸することで年間4,000万円の賃料を受取り、年間2,500万円の固定資産税や借入利息等費用を払ったとしましょう。この場合、
4,000万円-2,500万円=1,500万円
がいったんの利益となりますが、さらに減価償却を反映させます。
そのマンションは建物であり、鉄筋コンクリート造であり、居住用の住宅です。耐用年数は47年となりますので、
2億円×0.022(47年の場合の償却率)=440万円
の減価償却費が発生します。結果、最終利益は
1,500万円-440万円=1,060万円
となり、税金はこれを基に計算することとなります。
一方、手元にいくらお金が残るか(キャッシュフロー)について、減価償却費は支出の伴わない費用であるためマイナスしません。借入元金の返済額が350万の場合、キャッシュフローは
1,060万円+440万円-350万円=1,150万円
となり、銀行はこの点も重視します。キャッシュフローについては後ほど説明します。
マンションの減価償却の対象
マンションの場合、取得に要した金額全てを減価償却するわけではありません。まずは土地と土地以外に分けましょう。この土地以外が減価償却の対象となります。
マンションの減価償却の流れ
マンションを減価償却するときは、次のとおり資産の種類分けが必要です。
①土地と土地以外に区分
②土地以外を建物躯体と附属設備(電気設備や給排水設備等)に区分
その上で、それぞれの耐用年数に従って各々の減価償却費を計算します。
マンションの減価償却の計算方法は2種類
減価償却方法は定額法と定率法の2種類があります。
定額法とは、取得価額に対して毎年定額が減価償却費として計算されるため、計算が簡便で馴染みやすいものです。
定率法とは、取得価額から過去の減価償却費を控除した金額(帳簿価額)に対して毎年定率が減価償却費として計算されるため、最初の減価償却費が最も大きく、その後徐々に減っていきます。資産は新しいほど能率がよく収益性が高いと考えるとごく自然な処理方法です。
このうち、現在新たにマンション投資をする場合に認められる方法は定額法です。平成28年3月以前の取得分については一部、定率法も認められていますが、今回は定額法で説明します。
耐用年数の計算方法
耐用年数は資産の種類や材質、構造、用途によって決まります。これを法定耐用年数といいます。
減価償却費の計算方法
減価償却費の計算方法は次のとおりです。
定額法 取得価額×定額法償却率
定率法 帳簿価額×定率法償却率
なお、償却率は耐用年数によってそれぞれ定められています。HPで「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」で検索してみてください。
中古マンションの減価償却費の計算方法4パターン
中古マンションを取得した場合、法定耐用年数ではなく取得時以降の使用可能年数(残存耐用年数)で減価償却費を計算することとなります。また、契約書面の記載方法によっても減価償却費の計算方法が異なるため注意が必要です。
①築年数が法定耐用年数を上回る場合の計算方法
使用可能年数の見積りが困難な場合は、次の算式で残存耐用年数を求めます。なお、見積りが困難な場合とは、見積りに特別な調査が必要で多額の費用を要することをいい、実務上はほとんど使用されません。
残存耐用年数=法定耐用年数×20%
例えば、築年数30年、法定耐用年数27年の場合
27年×20%=5年
の償却率で計算します。
②築年数が法定耐用年数以内の場合の計算方法
①同様、実務上は次の算式で残存耐用年数を求めます。
残存耐用年数=(法定耐用年数-築年数)+築年数×20%
例えば、築年数20年、法定耐用年数27年の場合
(27年-20年)+20年×20%=11年
の償却率で計算します。
①②ともに1年未満は切捨て、2年未満となるときは2年となることに注意が必要です。
③土地と建物の金額が売買契約書に記載されている場合の計算方法
売買契約書から資産の種類分けをすることとなります。契約書に土地と建物の金額がそれぞれ記載されている場合は、その金額を取得価額として建物部分の減価償却費を計算します。
④土地と建物の金額が売買契約書に記載されていない場合の計算方法
契約書に土地と建物のそれぞれの金額の記載がなく合計での記載となっている場合でも、「うち消費税●●●円」や「消費税●●●円含む」等の記載があれば、消費税額から逆算して対象である建物の金額を算出することができ、合計からの差額が土地の金額となります。
厄介なのは消費税額の記載がない場合です。この場合、固定資産税評価額での按分、もしくは市街地価格指数や建築価額表等を利用した推定時価の算定が必要となります。
さらに、③④ともに建物のうち附属設備の金額が契約時書面ではわからない場合が多く、実務上は全て建物本体で計算されている例が多いかもしれません。しかし、工事費割合から算出したり、固定資産税評価の積算根拠を市区町村から取り寄せたりすることで区分は可能です。
これらの区分はいい加減にしない方がいいと考えられます。建物より付属設備の方が一般的に耐用年数が短く、キャッシュフローに大きく影響するからです。しかし都合よく土地より建物、建物より附属設備に金額を振っていくのは認められないでしょう。大事なのはいかに合理的に説明できるかです。その点は税理士等の専門家に相談した方がよいでしょう。
減価償却費が大きくなる場合
同じ投資額であれば耐用年数が短いほど一年あたりの減価償却費は大きくなります。そのため、鉄筋コンクリート造(47年)より軽量鉄骨造(27年)、軽量鉄骨造より木造(22年)の物件に投資する方が一年あたりの減価償却費は大きくなり、結果として節税効果やキャッシュフローの改善につながります。また、建物を付属設備に振り分けるのも効果的です。ただし、減価償却費の総額は変わらないことに注意してください。
中古物件の購入は節税になるって本当?
中古物件の購入が節税になるポイントは耐用年数にあります。中古物件の耐用年数は説明したとおり築年数によって決まるため、例えば築年数が法定耐用年数を上回る場合、木造だと4年(22年×20%)で償却できるわけです。結果として投資初期の費用が大きくなり税金が抑えられる上に、キャッシュフローも改善されます。
ただし、この例ですと5年目以降減価償却費がなくなるため税負担が重く、キャッシュフローも悪化します。また売却時の税負担も重くなります。
売却時の税金は、
売却収入-(帳簿価額+売却費用)
に対して課されます。帳簿価額は取得価額から過去の減価償却費を控除した金額ですので、減価償却費が大きくなればなるほど帳簿価額は小さくなります。その結果、課税対象が大きくなり税負担が重くなるわけです。
つまり、投資初期の節税効果は高いですが、その後の運用や売却時も見据えたプランニングが必要となります。
《減価償却は支出を伴わない経費の扱いになるのか?》
・減価償却はキャッシュフローにどんな影響があるのか?
減価償却は冒頭でも説明したとおり、取得するのに要した金額をそのモノの劣化に応じて費用として配分することをいいます。あくまで費用としての配分ですので、新たに金銭の支出が発生したわけではありません。その点キャッシュフローにはプラス(現預金の増加)の効果があるのは確かです。
一方で、取得の際に一括で金銭支出が発生している、もしくは銀行借入を行うことで毎月継続的に銀行への借入返済支出が発生しているはずです。
キャッシュフローを考えるときは、減価償却費と併せてそもそもの支出を考慮しなければ実態は見えません。その結果、必ずしもプラスの効果があるとは言い切れないのです。
・減価償却による「デットクロス」とは
マンション投資においては最初に多額の購入資金が必要となるため、銀行借入をするケースがほとんどです。そして、その毎月の借入金返済を減価償却のキャッシュフロー効果で賄うこととなります。減価償却費は支出の伴わない費用であり、借入元金返済は費用とならない支出であるため、減価償却費>借入元金返済であればキャッシュフローはプラスです。
問題となるのは元利均等返済の効果により借入利息が減少し、借入元金返済が大きくなっていった結果、減価償却費<借入元金返済となる状態をいい、これを減価償却による「デットクロス」といいます。
こうなると利益が出やすく税負担が重くなる上、キャッシュフローも悪化する二重苦の状態に陥る可能性があります。
これは事前のシミュレーションである程度わかることですので、これを想定して繰上返済や新たな物件への投資、売却等をプランニングしておくことが重要となります。
《減価償却費が大きい程良いのか?》
これまで述べてきたとおり、減価償却費が大きい方が投資初期の節税効果が高く、キャッシュフローが安定するのは確かです。ただし、減価償却費の総額は変わらないため、減価償却費が大きいというのは言い換えると減価償却費の先取りにすぎないのです。そのため、いつかその影響を受けることとなります。
それを考慮した上でプランニングを持ってマンション投資とつき合っていける方には良いといえるかもしれません。
《マンションの減価償却費は重要な経費なので把握しておこう》
減価償却費の重要性について理解していただけたでしょうか。減価償却費は適正な損益を把握するのに必要であり、ただその金額は投資対象や投資時の処理で全て決定してしまいます。つまり高い確度でのシミュレーションが可能であり、デットクロスにも事前に備えることができるのです。
マンション投資経営には減価償却費との上手なつき合いが不可欠です。もし、自身のマンション投資経営に不安を覚える方がいらっしゃれば、一度減価償却費の観点から見直してみることをおすすめします。
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以上